MVNOは日本の通信を変えられるか?

バックナンバーに戻る

2016/3/28

株式運用部

永田 芳樹

※このレポートでは、日本株ファンドマネージャーが注目しているトピックなどを毎週お届けします。

 

長い間寡占されてきた日本のモバイル通信業界でも、最近はMVNOの話題を良く聞きます。先週もSNS事業者のLINEが今夏から「LINE MOBILE」を500円からスタートするとリリースしました。詳細はまだわかりませんが、LINE MUSICの無料化などで差別化していくようです。MVNOの普及は少しずつ進んでいるようですが、まだ日本では低シェアとなっています。

 

そもそもMVNOとはなんのことでしょうか。Mobile Virtual Network Operatorの略で「仮想移動体通信事業者」のことです。通信事業を行うには周波数帯を確保し総務省から免許を受け基地局等の多額の設備投資をしなくてはなりませんが、その設備と回線を利用料を払うことで借り受け、自社のサービスとして展開する事業者のことです。

 

ではMVNOで提供される回線のバックボーンは、どの業者が多いのでしょうか。それは圧倒的にNTTドコモ(以下ドコモ)の回線です。auのKDDIは数社に提供していますが、ソフトバンクはほとんどないようです。その理由はまず回線の利用料が、ドコモが最も安いからです。この料金は各キャリアが開示していますが、ドコモは圧倒的に安く提供しています。ではドコモはなぜわざわざ安い値段で提供しているのでしょうか。それは法律が関係しています。電気通信事業法で一定シェア以上の事業者は、他社に不利益がないようにする必要があり、そのためにMVNOを希望する会社を断ることができないのです。

 

またKDDIは音声通話の回線方式でCDMA2000を使っていたため、世界でメジャーなW-CDMAのドコモの方が端末調達に有利であった点も、ドコモがMVNOから選ばれる理由です。そもそもドコモほどシェアが高くないauやソフトバンクはこれからさらにシェアを上げたいため、シェアダウンにつながるMVNOに回線を貸すインセンティブはあまりありません。つまり、価格、仕組み、モチベーションのどれをとってもドコモが選ばれやすい環境にあるのです。

 

それでは今後のMVNOはどうなっていくでしょうか。新しいビジネスモデルが成功するために重要なのは、「顧客」と「提供価値」だと思います。MVNOの顧客は「既存のキャリアを高いと思っており、少し不便でも利用料を下げたい消費者」で、提供価値は「安い価格で安定した通話品質」だと私は考えています。ここで提供価値を見ていると、「通話品質」は回線の卸元に依存し、「安い価格」も均一な仕入れ値に依存しています。つまり世の中のMVNOがドコモを使う限り、提供価値はすべてドコモに依存していることになります。これは別の言い方をすると、「差別化できない」ということになり、利益率を極限まで落とす競争のあと、残存者が少しの利益を得ていく姿が想像されます。

 

私は最初、特定の販路に強みを持っているワイヤレスゲートなどのMVNOに期待をしていました。ところが蓋を開けてみると、販路として期待した出資者のヨドバシカメラの店でも、他の多くのMVNOと扱いはあまり変わらず、ワイヤレスゲートだけが優遇されているわけでもなく失望させられました。

 

また価格の優位性も総務省の指導もあり、大手キャリアが廉価なプランを出してきたため、MVNOの絶対優位とはいえない状況になってきました。絶対的な価格優位性がなくなれば、脆弱な音声プラン、速度制限などに目がいきます。冒頭のLINEも音声通話サービスが提供されない予定で、ターゲットと想定される固定電話を持たない30代以下の年齢層の主回線になるのは難しいと思います。結局無料を売りにしているLINEのヘビーユーザーが集まるだけの2台目端末になりそうです。ユーザーには無料のLINEでも、結局はドコモのMVNOの使用料は使われた分だけ事業者の負担となります。よほど数が出ない限り、儲からないMVNOになりそうです。

 

このように日本通信がドコモと交渉し切り開いてきたMVNO市場も、寡占する会社がないまま価格競争が続く市場になっていきそうです。MVNOを日本で一番最初に開始した日本通信は在庫の評価減による年度の赤字予想や四半期ベースでの売り上げ減などから株価も右肩下がりになっていますが、残念ながらこれがMVNOの将来性を暗示しているように感じます。

 

ただこの分野で利益の安定成長ができる分野がひとつあります。それはドコモのMVNO回線の卸売りを行う会社です。ドコモから回線を仕入れて消費者に売るBtoCのビジネスではなく、ドコモから回線を仕入れてMVNOに売るBtoBのビジネスを手掛ける会社です。ここはニッチですが規模が重要で、意外に参入障壁が高い分野です。MVNOの中でNTTのようなインフラ提供会社となるような企業に注目していきたいと思います。

 


■当資料は情報提供を目的として大和住銀投信投資顧問が作成したものであり、 特定の投資信託・生命保険・株式・債券等の売買を推奨・勧誘するものではありません。 ■当資料は各種の信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが、その正確性・完全性を 保証するものではありません。 ■当資料に記載されている今後の見通し・コメントは、資料作成時点におけるレポート作成者の 判断に基づくもので、事前の予告なしに将来変更される場合があります。 ■当資料内の運用実績等に関するグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を 約束するものではありません。 ■当資料内のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。

PICKUPコンテンツ