人工知能に付加価値はない?!

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2017/1/30

株式運用第一部

永田芳樹

 

※このレポートでは、日本株ファンドマネージャーが注目しているトピックなどを毎週お届けします。

 

最近、新聞を見ていると、人工知能(Artificial Intelligence、AI)を見出しにしているものの多さにびっくりします。「タイヤ生産にAI」、「AIを応用してがんを早期発見」など今日の新聞だけでもいくつも見出しになっています。このような状況を見るとAIが世の中を急に変え始めたような感さえします。ただAIは最近つくられた言葉ではありません。1956年にダートマス会議で命名されたものです。

 

30代以上なら覚えていると思いますが、1990年頃、ニューロ&ファジーという言葉がハイテク家電として洗濯機などに使われていました。ただ、何がニューロでファジーなのか明確に説明できる人は多くないと思います。これは人工知能(神経回路を模したソフトウェア)と揺らぎ(0と1だけでない中間値を許容した論理演算)を採用した家電でしたが、一般的には高級機に採用されていたマイコン制御をニューロ&ファジーと言っておけばPRになるというような感じで使われていました。これは猫も杓子もAIと言って、新聞にも取り上げられる今の状況に似ているような気がします。

 

最近AIについて様々な視点から、集中的に調査、学習をしました。実はもともと私はAIについては土地勘があります。というのは1990年代前半、大学の工学部機械情報学科の学生だった頃、AI研究室に所属し2年間AI関連の研究をしていたためです。当時は第2次AIブームの末期で、主役は「人間の脳」でした。私の専門は脳波、脳磁波で、聴覚や視覚に様々な刺激を与え脳の反応部位を知ることで、人間の知覚過程を解明しようとするテーマでした。ヘッドセットで脳波を測るだけでなく、医科大学の先生にお世話になってMRIでも実験するなど、当時の最先端の設備も使いながら測定を行いました。空間を走り回るノイズには悩まされましたが、脳が与えられた刺激に対して部位ごとに3次元的に反応すること、換言すれば神経細胞(ニューロン)は相互に極めて広くほぼ同時に反応することを目で視ることで、脳の無限の奥深さに感銘させられました。また脳全体で1,000億個以上の神経細胞のつながりは、機械が簡単に模倣できるものではないと実感しました。

 

当時のAIの主役はニューラルネットワーク(神経回路網)でした。これは人間の脳神経回路をまねることによって、数値データを人間と同じように分類しようとするアルゴリズムです。人間の脳はニューロンのネットワークで構成されています。ニューロン間を結ぶシナプスに流れる電気が一定以上たまると発火し、次のニューロンに電気を伝えます。これをコンピュータのアルゴリズムで表現すると、デジタルの0と1のデータのやりとりをする際重みという概念を導入し、受け取った信号の合計が一定の閾値を超えると1を出力し、超えない場合は0となることをいいます。このアルゴリズムの肝は重み付けで、AIが機械学習する過程で最適な値を出力するように調整し、入力に対する出力の精度を高めていきます。

 

1990年頃の第2次AIブームのころはコンピュータの性能が足らず、この「入力層」→「中間層」→「出力層」⇔「正解」という流れの中で精度をあげるのに重要な中間層を、計算能力の問題から1層しか持つことができませんでした。しかし、これが最近のコンピュータの計算能力やデータ蓄積能力の進化で、中間層1、中間層2・・・・・などといった形で多層に持つことができるようになり、画像処理といった複雑なものまでこなすことができるようになりました。これが第3次人工知能ブームの立役者である「ディープラーニング(深層学習)」です。この流れからもわかる通り、ディープラーニングはニューラルネットワークの発展形なのです。

 

このように一般の人が夢のようになんでもできそうだと思ってしまうAIのアルゴリズム(エンジン)は、劇的な進化が起こったわけでもなく、コンピュータの性能アップとともに着実に進化してきました。このことはAIのエンジンの付加価値があまりないことを示唆します。既にGoogleやマイクロソフト、アマゾンが提供しているAIのプラットフォームを使えば少しのエクセルなどの知識で様々な人工知能を実現できます。AIブームで様々な会社が、AIの活用に取り組んでいますが、AIのエンジン自体で差別化するのは、今後ますます難しくなるでしょう。

 

先日、東京大学の電気系学科でIoTを研究している教授とお話する機会がありました。私の東京大学で人工知能を研究している学科はどこですかという質問に、いろいろな学部学科でそれぞれやっていますとの答えがありました。AI自体は研究するものでなく活用することが重要で、その使い方にノウハウがあるとのことでした。

 

自ら考える「強AI」ではなく、現在脚光を浴びている「弱AI」レベルでは、あくまでも人間が教える(機械に学習させる)ことが重要です。機械への情報のインプットの仕方の良し悪しが出力(成果)を決めます。AIの専門家に話を聞くと誰もが、データサイエンティストの重要性を強調します。統計学、コンピュータサイエンス、データ分析、実務に精通し膨大なデータを構造化しながらチューニングする人々です。極めてハードルが高い職種で特に、実務は勉強だけでは乗り越えられません。

 

結局、AIの活用で成功するためには、どのように活用するかまずコンセプトを固め、それに向けて人材を揃えることが重要だということです。

 

 


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