禍を転じて福と為す

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2017/2/20

株式運用第一部

永田芳樹

 

※このレポートでは、日本株ファンドマネージャーが注目しているトピックなどを毎週お届けします。

 

先日2日間、関西地方へ銘柄発掘ツアーに行ってきました。ツアーと言っても一人で1日に4社ほど取材に廻るだけなのですが、地方は東京のように電車があるわけでもなく、タクシーが流しているわけでもなく、行程管理と取材準備で気が抜けません。ただ努力するとそれなりに成果があります。

 

2か月ほど前、九州・中国地方を回った際巡り合ったある食品関連株はお宝銘柄となりました。   IR取材を受けたのは数年ぶりという会社でしたが、会社の業績予想は増収大幅増益でありながら、PERは7倍程度と株式市場から放置されていました。実際取材に行って話を聞くと真面目に美味しい商品づくりに徹している会社で、非常に好感が持てました。その後、株価は倍近く上昇しましたが、未だに魅力的に見えます。

 

今回は場所を変え、上場企業も多い関西圏に行ってきましたが、またお宝候補になりそうな会社がいくつか見つかりました。そのうちの一社は、工場などの設備向けの金属製品をつくっている会社です。この会社はPBR0.5倍程度のマイクロキャップ銘柄です。IR取材を受けたのは5年間で2社目とほとんど市場からは注目されていません。ただ無借金の会社で財務的な不安はなく、また主力製品が5年で交換の必要がある設備部品なので、安定した受注とキャッシュフローが見込める会社です。あまり変化のない企業ですが、5年前には実は会社を揺るがす大事件がありました。

 

この会社は、国内売上が80%、海外が20%程度の会社です。生産は国内中心ですが、国内需要は安定しているものの大きくは伸びないため、設備は最新のものとはいえません。一方海外の生産拠点も1980年代に進出したタイ工場のみで、日本の国内需要の補完と海外需要を担っていました。タイ工場は人力に頼る部分が大きく、人件費の上昇からちょうど機械化を検討している時に、2011年の水害が起きました。タイへの進出が早かったため、工場が低地の利便性の良い土地にあったことが禍いし、あっという間に屋根まで水で覆われました。在庫も工作機械も全滅です。リーマンショックからまだ日が浅く、売上も回復し始めたばかりだったため、外部から視ると非常に厳しい状況でした。

 

ただ、ここで地道に稼いできた効果がでます。この会社は無借金で、リーマンショック後でも潤沢なキャッシュがありました。そのため資金繰りに困ることはまったくありません。また主力製品もイノベーティブなものではなく、ニッチマーケットのトップ企業であったため安定した注文が途切れることはなく、逆にやや過剰ぎみだった在庫が一掃されました。これらはリーマンショック時に暴落したコストの安い原料でつくった在庫であったことから、短期的には逆に利益率を高めることになりました。

 

その後、生産拠点を失った影響が出始めたことによる売上減少と、原料コストが上昇したあと生産した在庫に入れ替わったことで、2012年後半からは利益額が落ち込み始めました。ただここでも健全な財務状況がものを言います。実はこの会社は、タイ洪水の初期の段階の2011年から工場の高台への移転を検討していました。リーマンショック時も借入の必要がないほど資金的に余裕があったことで、すぐに好立地を確保し、以前から検討していた生産性アップの機械化も同時に進めていたのです。もともとタイの工場は安い労働力が故に、効率化を怠っていました。その結果日本の工場と生産性の差が広がっており、利益率の低いものを生産する工場となっていたのです。タイの工場は、洪水により否応なく移転したことで、日本以上の生産性を持つ、最新の工場に生まれ変わりました。

 

この効果が2015年度から売上高総利益率が5%改善する形で発現し始めています。2015年は市場環境がやや停滞していたため、営業利益の改善は限定的でしたが、2016年度に入り売上増を伴う改善になってきました。業績が好転してきた今でさえPERが9倍台ですが、今後継続的な売上増が見えれば、さらなる業績改善も期待されます。洪水がなければ現状維持となっていた生産体制も最適化されており、リーマンショック前の2007年の最高益を超える日も近いと感じます。

 

「禍を転じて福と為す」を地で行く結果ですが、やはり神頼みだけでは「福来る」とはならないようです。日本には4,000社近くの上場企業があります。市場成長率が乏しい業界に属していても、新規参入がないため業績が大崩れしない会社も山のようにあります。市場成長が大きく見込めず注目を浴びにくい低PBRの企業が大きく変化するには、危機が効果的なようです。

 

 


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