アクティブ運用の働き方改革

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2017/4/3

株式運用第一部

永田 芳樹

※このレポートでは、日本株ファンドマネージャーが注目しているトピックなどを毎週お届けします。

 

先日Bloombergニュースに、ゴールドマン・サックスのニューヨーク本社の資産運用部門が、大規模なオフィスのレイアウト変更を行うという記事が掲載されました。それによると株式や債券戦略を手掛けるファンダメンタル運用業務の担当者が肩と肩を並べる新しいスペースに移り、容易に意思疎通できる環境をつくることで、運用の質やチーム力を向上させることが目的だそうです。

 

日本では大手広告代理店の問題を契機に、安倍政権の推し進める働き方改革がますます注目されています。安倍首相が座長の「働き方改革実現会議」では、日本人にとって「働き方」は「暮らし方」そのものであると認識し、「働き方」を変えることで日本の労働者の労働時間、生活スタイル、賃金、モチベーションなど多面的な改善を実現し、生産性、消費、豊かさの向上を実現していくことを狙っています。

 

弊社では経営陣の長年の努力によって、労働時間や休日など世間で問題として取り上げられていることは対応策が既に浸透しており、有給休暇をとらないことは悪いことという文化が出来上がっています。やはり上司が率先して休む風土が、全体に影響を与えていると感じます。

 

ただアクティブ運用では働き方改革によって、最大の目標である運用パフォーマンスが向上するかというと、はっきりそうとはいいきれません。労働時間が適正化されモチベーションがあがることでプラス要素はありそうですが、直接的な因果関係はないと考えています。その理由は、アクティブ運用が相手にしている株式、債券、為替といったマーケットの変動は、確率的なものであるからだと思います。努力がゼロなら当たる確率は半々、中途半端な努力でも下手をするとマイナス寄与、懸命に努力してもそれが正しい努力でないと正解率は上がりません。製造業でもサービス業でも努力(労働)がゼロなら成果はゼロですが、努力をすればそれなりに比例して成果があがります。この確率的な要素が強い点と、努力が必ずしもプラスとならない点がアクティブ運用の面白い点であり、また難しい点でもあります。

 

このように考えるとアクティブ運用でより良いパフォーマンスを上げるには、働き方の質を上げることが重要となりそうです。前述のゴールドマン・サックスのレイアウト変更は、アクティブ運用に必要な真理をついています。私はいくつかの運用会社の組織を内部から見てきましたが、働き方は様々でした。例えば、ある会社の銘柄選択会議は重々しい雰囲気で、中心的なファンドマネージャーが意見を一方的に話し、アナリストが気軽に意見を言える雰囲気ではありませんでした。またある会社は社員に個室が与えられているため、話したいときにすぐ話すわけにはいきませんでした。その点、現在のオフィス環境はチーム員と肩と肩を並べているため、いつでも好きなように話せる点で合理的です。それでも皆取材などで同時にオフィスにいる時間は限られているため、話したいときにすべて話せるわけではありません。私の場合は通勤の行き帰りでその日の取材やレポート情報、決算などをもとに投資アイデアを考えるので、朝は特にアイデアで溢れています。それを朝一番に同僚のファンドマネージャーに話し、意見や周辺情報、斬新な視点を得るのが安定したパフォーマンスの源泉です。

 

ただ私のように折角自分で考えた投資アイデアを、うれしくて皆に話すファンドマネージャーは限られています。たいていの人は黙々とマーケットを見たり、一人で考えたりするのが好きなようです。一人では限界があることも、他の人の知恵を借りれば一瞬でわかることも多々あります。私は話しながらブレインストーミングする過程で新しい投資アイデアが毎日でてきますが、この自分だけでは思いつかないアイデアが大切だと感じます。元A.T.カニー極東アジア共同代表で経営戦略コンサルタントの山本真司さんの言葉を借りると、わいわいがやがやを意味する「ワイガヤ」のオフィスの雰囲気こそ、前向きなアイデアが生まれやすい環境だと思います。

 

最近流行りの人工知能(AI)の投資の肝は、これまで使いきれなかったビックデータ(インプット)を活用してAIで素早く処理し、短期的な値動きの予想をもとに投資することです。スピードとデータ処理量で人間は勝てない以上、人間が行うアクティブ運用が目指すべき姿は、コンピュータの苦手な長期予想に付加価値を求めることです。「ワイガヤ」で有機的につながりをつくることは、AIのニューラルネットワーク(神経回路網)に当たります。これを多層化することが、ディープラーニングにあたります。そして人間がコンピュータに勝っているのはインプットするデータの質です。AIに有意に勝つためには、運用者が進化し投資アイデアの精度を上げる仕組みづくりが重要です。特に日本株で導入が予定されているフェアディスクロージャールールの時代では、これまでの投資アイデアを「聞く」働き方から、投資アイデアを「創造」する働き方づくりが必須です。アクティブ運用の世界では、今まさに「働き方改革」が求められています。

 

 


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