創業者のこだわりと顧客指向

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2017/4/24

株式運用第一部

永田 芳樹

※このレポートでは、日本株ファンドマネージャーが注目しているトピックなどを毎週お届けします。

 

私は朝最寄り駅の一つ前で下車し、会社まで散歩をします。そこは閑静な住宅街で、500mほどの桜並木になっています。早朝に出会う人は決まっており、仲睦まじい老夫婦、ジョギングする外国人、そして睨みをきかせるSPを引き連れながら散歩する政治家です。このように日本人もあまりいない秘密の散歩道ですが、今年の桜の季節には驚いたことに朝から何人ものアジア系の観光客に会いました。どうもSNSで評判を聞いて訪れているらしく、桜は他国がすぐに追いつけない日本独自の観光資源だと実感します。

 

日本が持つもう一つの最強の観光資源が食です。まず外国人が思いつく日本の食べ物は寿司ではないかと思いますが、私は日本のどこにでもあるラーメン、ファミレス、回転寿司、定食、牛丼といった外食チェーン店も食の日本独自の観光資源ということができると思います。強みはなんといってもバリューフォーマネーで、500円ほどで衛生的で美味しい多種多様な昼食が取れる国は、なかなかないと思います。

 

この外食産業は2種類に分けることができます。一つはチェーン店の生命線である新規出店を大規模に継続し売上高は伸び続けるものの、既存店売上がマイナスで常に減損のため当期利益が低迷する企業、そしてもう一つはそうでない企業です。

 

前者の代表例が、既に人気が高まっている業態に倣い、高速で新規出店をするフットワークの軽い企業です。味ではなく素早い業態開発が強みなので、飽きられるのも早い傾向にあります。また売上が低迷しだすと次のコンセプトに衣替えするので、なかなか店舗投資が回収できません。そのため出店をし続けないと売上拡大ができない一方コストは増え続けるので、結果的に売上が増えてもそれに見合った利益成長ができません。ただし日々キャッシュは入ってくるので売上が拡大している限り、お金は回っていきます。一方業態をむやみに増やさず、自社の創業の業態にこだわりそのブラッシュアップを続ける企業もあります。安売りもせず、味や食材にこだわり顧客満足度を高める努力を続ける企業群です。これらは出店をキャッシュフロー内で行ったりするなど保守的な経営をすることも多く、売上成長は大きくなくても着実に増益していきます。

 

この2種類の外食企業群の経営戦略は、創業者の経営理念や理想に基づいているため、簡単に変わることはありません。私が投資銘柄を選ぶ際に好むのは後者の顧客満足度に拘る企業群ですが、最近前者から後者に変わりつつある会社がでてきました。

 

創業時の業態が低迷し、多ブランド戦略をしながらなかなかうまくいかなかったものの、新業態開発の成功で復活しつつある企業があります。ペッパーフードサービスです。もともと「ステーキのくに」というステーキ業態で創業しましたが、1990年代にペッパーランチという廉価なステーキ業態を開発し上場にこぎつけました。ただ、この業態は値段や見せ方に重きがあり味や質はそれなりであったため、強い業態とはいえませんでした。また多業態戦略もなかなか成功できずにいました。いろいろな面で限界が出てきた上に不祥事が起こり、売上成長が命の多業態戦略企業でありながら、2010年前後には大幅減収減益を経験しました。

 

追い込まれたところで「ステーキのくに」の半額で商品を提供する新業態の「いきなり!ステーキ」を2013年に始めました。立ち食いにすることで狭い店舗でも回転率を上げ、70%の高い原価率を補っていく業態です。これは顧客側から見ると日本で一番お得な外食の一つといえます。バリューがマネーを大きく上回るバーゲンセール業態でした。肉は素材そのものの価値がわかりやすく、消費者に受け入れられ、この業態が急成長しています。独自のポイントカードを発行することでサービスに差をつけるなど、他社に模倣されにくい仕組みも作り上げられています。さらに座席を他店と共有するショッピングセンターのフードコートの出店も好調で、値段以上のものを提供すればフードコートで2000円の高単価が受け入れられることを証明し、デベロッパーに驚きを与えています。

 

ペッパーフードサービスは多業態型の企業だと私は思っていましたが、実は「肉」という軸で多店舗展開をしています。そして創業者が大切にしている創業の味を半額で提供するという、コペルニクス的大転換を行ったことが現在の成功につながっています。結局この会社の本質は、売上でなく顧客指向だと感じています。

 

先日出張でニューヨークに行った際、「いきなり!ステーキ」の海外1号店にいってきました。値段は日本並みかそれ以上ですが、牛肉の質は日本以上でした。アメリカ国内で調達したものを提供しており、品質対比ではアメリカ人にもお得感があるようです。立ち食いをうたっていますが座席もあり、アメリカで受け入れられる可能性は高いと感じました。路地裏に出店する戦略は貫いており、バリューフォーマネー以上を提供し続ければ海外店舗も成長ドライバーになっていきそうです。

 


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