情報産業の地方進出が加速する

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2017/5/15

株式運用第一部

上石 卓矢

※このレポートでは、日本株ファンドマネージャーが注目しているトピックなどを毎週お届けします。

 

企業誘致という言葉を辞書で調べると、『地域が地場の産業振興を目的に企業、特に工場を誘致すること』と定義されています。この言葉の定義を変える事例が高知県にありました。

 

人口約72万人。もともとは農業で栄えた地域でしたが、製造業に不利な立地のため、農業の縮小とともに1955年から人口減少に転じました。魅力的な就職先が少ないことが一因となり、2001年からは他県への人口転出超過幅が拡大します。この状況をどうにかしようと、高知県は必死に企業誘致をしました。最近ではその努力が実り、いくつかの企業が高知県に拠点を設けています。さて、ここで皆様に問題ですが、高知県の誘致企業のなかで2016年にもっとも雇用を創出した会社はどこでしょうか?日本の競争力が見直されつつある農業関連の企業でしょうか。それとも工場稼働時に多くの雇用を生みだす製造業の企業でしょうか。

 

答えはアイレップというインターネット広告代理店の会社です。1997年設立、検索連動型広告の国内最大手で、本社は東京にあります。インターネット広告代理店というとプランニングやクリエイティブなど都市型産業のイメージがありますが、5,000パターン前後のキーワードをグーグルなどに登録し、すべての審査や掲載の状況を確認し、広告の成果を正確にレポートにまとめる、といった人手が必要な業務が多く、実際は労働集約型産業の側面もあります。そのため、人材獲得が重要ですが、東京は人手不足で採用が追いつかないため、高知県への進出を決めたそうです。アイレップの他にも、情報産業では人手が必要な仕事が数多くあり、宮崎県など情報産業の企業誘致で有名な地域も出てきています。以下の三つの理由から、今後も情報産業の地方進出が加速すると見ています。

 

第一にコストが下がります。情報産業は人件費が一番大きな費用項目ですが、アイレップの場合、東京の人材派遣料が残業代込みで月50-60万円な一方、高知の地域正社員の初任給は月15.5万円です。また、東京は採用コストも高く、人材紹介料や求人広告費用が上昇していますが、高知は地元の協力が手厚く、ハローワーク・NHK・チラシなどを使い低コストで採用が出来る他、一定の条件を満たせば半年継続雇用に対し補助金が支給されます。また、東京と比べてオフィス賃料が安い他、土地や減価償却にかかる補助金が支給される点も見逃せません。このように程度の差はあるものの、人件費・オフィス賃料の相対的な低さ、そして補助金の相対的な高さは地方共通です。

 

第二に地方が情報産業の誘致に積極的です。アイレップを例にすれば、上述の補助金や人材採用協力だけでなく、高知県の超一等地の最新複合施設がオフィスとして利用可能となっています。こうした厚遇は地方が情報産業をキラキラした成長産業だと認識しているためです。実際、高知の企業誘致担当の方は「アイレップを核に類似企業を誘致したい。ベンチャー投資なども行っていきたい。」と次の姿を前向きに描いていました。また、地元で働く方にとっても、転勤なし、正社員、事務職、というのは人気の高い仕事です。

 

第三に製造業から情報産業への産業構造の変化です。民間テレビ放送の黎明期を過ごした梅棹忠夫が1963年に情報産業論にて情報産業という概念を提唱して以降、1964年のマクルーハンのメディア論、1973年のベルの脱工業化社会の到来、1980年のトフラーの第三の波、と新たな産業の到来が描かれ、足元まで情報産業の拡大が続いています。おそらくこれは今後も続くトレンドであり、情報産業の成長企業が増えるにつれて、第2、第3のアイレップのような会社が出てくると推察されます。

 

情報産業の地方進出が加速する場合、企業の成長性や利益率を考える上では、地方の現場をどれだけ知っているかが大事になると思います。市場成長率×シェア×限界利益率だけで業績を予想するのではなく、価格はどのように決まるのか、現場はどのような手順で仕事をしているのか、人件費はどう推移するのか、といったことの現場感覚が重要だと考えています。既存の経済は製造業の枠組みをベースとしていることが多く、情報産業にどういう性質があるのか、どのような方向に進むのか、分からないことだらけですが、多くの現場を見て、経営者と議論を重ねながら、今後の情報産業の動向を観察していけたらと思います。

 

 


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