ピンチで進化するAmazonの対抗馬

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2017/5/22

株式運用第一部

永田 芳樹

 

※このレポートでは、日本株ファンドマネージャーが注目しているトピックなどを毎週お届けします。

 

今年2月、カタログ通販・ネット販売大手のアスクルの「Logi Park首都圏」で火事がありました。この倉庫はアスクルの東日本の主力倉庫で、消費者向けに水や洗剤などの日用品のネット販売を行っている「LOHACO」というサービスの最重要物流拠点でした。このニュースを聞いた時、私の最初の投資判断は“売り”でした。何故ならこの会社の長期成長ドライバーがLOHACOだったからです。継続的にこの会社を見ていればわかるのですが、この物流倉庫は2013年に稼働した新しい倉庫で、高さを自動調整する最先端の自動梱包や自動ピッキングなど、最先端の技術を積極的に導入するアスクルの基幹物流拠点であり、ネット通販で成長を目指すアスクルのノウハウの詰まった倉庫だからです。

 

最初は単なる火災かと思われましたが、何日経っても燃え続けていました。結局2月16日に出火し、鎮火は2月28日でした。これだけ長い間燃え続ける火災は滅多にありません。近隣住民の中には長期間避難を迫られた方もいました。ただ不思議なことにテレビを通しても、あまり強い不満が聞こえてきません。個別補償を除くと見舞金も近隣約300世帯に一律1万円と、長期間の割には少額でした。これだけ見ているとアスクルは非常にうまくマスコミ対策や近隣対策を行ったように見えますが、普段投資家としてアスクルに接していると、実に納得感があります。

 

アスクルという会社はネット通販の拡大に邁進する効率性重視の会社だと思われがちですが、実は岩田社長を筆頭に古き良き日本企業の文化を持ち合わせた地道な会社なので、地元への説明も真摯に対応したと思われます。これが他のネット物流企業なら、おそらく自社のネットサービスの継続に社長が時間を割き、地元対応が後回しになったかもしれません。社長の柔らかい人柄がこの問題を早めに収束させたと考えています。

 

私はここ7年ほどアスクルに注目しており、社長と頻繁に接してきました。火災が落ち着いた4月にお話した際、相当疲れているのではないかと心配していましたが、予想外に元気そうでした。実は社長はこの火事を「売上が増えてもなかなか収益化できないBtoC事業を再構築するチャンス」と前向きに捉えはじめていたからでした。

 

アスクルは企業向けのカタログ通販を主力として成長してきました。2012年にヤフーの出資を受け、その後子会社となり、同年に個人向けの日用品ECサイト、LOHACOを開始しました。LOHACOはヤフーショッピングの日用品ECサイト的な意味合いもあり、ヤフーのEC戦略の一部でもあります。ポイント施策も共有化されており、ヤフーのECビジネスの売上拡大戦略の恩恵を低コストで享受しています。

 

Logi Park首都圏は全体の22%、BtoBの9%、BtoCの62%をカバーするアスクルのマザー物流倉庫でした。ただこの倉庫が稼働後、彼らが気付いたことがあります。元々BtoBが本業のため、BtoCも同じ重厚なスペックの最新設備を積極的に投入してきましたが、BtoB仕様の設備だと商品の改変に対応しにくいのです。BtoBは実用性を重視するため頻繁に品番は変わりませんが、BtoCは目移りの激しい消費者の興味を引くため、頻繁に商品が入れ替わります。商品を効率的に仕分けし発送するBtoBの設備は、コストが高いうえに商品入れ替えが行いにくいのです。

 

アスクルは今回の火事の代替倉庫として、たまたま空いていた近隣の新築倉庫を確保できました。LOHACO事業の専用工場とし、Logi Park首都圏に勤務していたスタッフを異動させて雇用を継続する予定です。LOHACO専用仕様で設備投資を軽くし、9月稼働を目指して構築中です。ここで蓄積したノウハウは日本全国の拠点に拡大し、損益分岐点を下げたLOHACO事業をつくり上げていきます。

 

これまで投資が嵩み黒字化することがなかなかできなかったLOHACOですが、今回の火事で抜本的な改革に踏み切れる可能性が高まっています。

 

私はリサーチも兼ねて100回以上LOHACOで注文してきましたが、火事の後LOHACOは発注時間を極端に制限した上、私の家のエリアは配送まで1週間以上かかっていました。ただ今週からはほぼ平常化し、24時間受付かつ翌日配送が可能になりました。岩田社長はこのような不便を承知した上で、応援してくれる人が多く驚いていると話していました。Amazon一強を懸念する日用品のナショナルメーカーも、物流能力を兼ね備え、ECブランドモールを強化するLOHACOの正常化を心待ちにしているそうです。9月のLOHACO専用倉庫の稼働とともに、売上高成長力だけでなく、利益成長力を持ったアスクルが見られるかもしれません。

 

 


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