株価が映す上場子会社のガバナンス問題

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2017/6/26

株式運用第一部

上石 卓矢

 

※このレポートでは、日本株ファンドマネージャーが注目しているトピックなどを毎週お届けします。

 

『説得』は、イギリスの物悲しい秋の風情のなか、人生のうつろいと繊細な恋心を描く、オースティン晩年の恋愛小説です。主人公のアンは好青年と恋に落ちて婚約しますが、母親代わりのラッセル夫人の分別ある説得に従って結婚をあきらめます。この悲しい出来事が8年間アンの心に影を落とした結果、アンはラッセル夫人の説得について「婚約をつづけていたほうが幸せだった」「それが正しい忠告だったかどうかは、いい結果に終わったかどうかで決まる」と思うようになります。

 

ラッセル夫人とアンのような実質的な親子関係が株式市場にもあり、これを親子上場と言います。上場子会社がアンのように誰かと結婚したいと望んだ場合、上場親会社はラッセル夫人のように分別をもって反対する権限があります。このような親子の状態は子供のためにならないということで、欧米では親子上場がほとんど解消され、ほぼ全ての企業が自由に結婚できるようになったのですが、日本ではいまだに多数の親子上場が存在し、子供が自由に結婚することも、自由にお金を使うこともできない状況です。このような旧態依然とした体制が日本に現存する理由のひとつは、“親から子供への忠告が比較的いい結果に終わった”ため、つまり上場子会社の株価が比較的堅調だったためです。

 

しかし、最近の上場子会社の株価は軟調であり、親子上場の正当化がいよいよ難しくなりつつあります。例えば、双方の時価総額が100億円以上の親子上場企業を比較すると、過去3年間のトータルリターンの中央値は上場親会社が37.1%、上場子会社が33.2%であり、上場子会社が上場親会社を3.9%アンダーパフォームしています。過去3年間は小型株指数が大型株指数を12.8%アウトパフォームするなど小型株にとても有利な時期だったため、上場子会社のパフォーマンス悪化は見た目以上に深刻です。

 

親子上場企業と東証規模別指数の3年間トータルリターンの比較

 

上場子会社が投資家から敬遠されはじめたのは、ガバナンスへの意識の高まりが背景だと推察しています。過去3年間、上場子会社の利益成長率は上場親会社より高く、上場子会社の業績は堅調でした。しかし、この期間にESG投資などガバナンスを重視する投資家や顧客が増えたことで、(1)委託金・預託金・貸付金など様々な形で上場子会社のキャッシュが上場親会社に事実上移転している点、(2)自社株買いへの制限や低い配当性向など株主還元への懸念、(3)少数株主利益を確実に保護する手段がない点、といった問題がより意識されるようになったと見ています。

 

日本では政治的配慮からか、コーポレートガバナンスコードなどでの上場子会社への言及は株式持ち合いなどと比較して小さいですが、運用会社が上場子会社への投資を正当化することは、ガバナンスの面からもパフォーマンスの面からも困難になりつつあると感じます。日本でも欧米同様に上場子会社のガバナンス問題が意識され、企業と株主の対話が進んだ場合、上場親会社に対して“重要子会社の100%子会社化”や“非重要子会社のスピンオフ”といった株主提案が増えると予想されます。これは日本株全体のガバナンスにとってプラスの動きと判断しています。

 

親子上場企業の直近3年間EPS成長率

 

 


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