現役ファンドマネージャーが考えるPER法のバリュエーション

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2017/8/7

株式運用第一部

上石 卓矢

 

※このレポートでは、日本株ファンドマネージャーが注目しているトピックなどを毎週お届けします。

 

四半期GDPの予想と言えば、従来はエコノミストの専売特許でした。しかし、最近では米国のアトランタ連銀が作成したGDP Nowという予測モデルなども使われるようになってきました。予測技術の向上やデータの整備をふまえると、今後はアナリストの四半期業績予想もこういったモデルへと移っていく可能性があります。例えばモバイルゲーム株の場合、iOSとAndroidでそれぞれ人気のゲームをランク付けし日々集計して売上を予想するという行為は、手作業よりモデルのほうが正確ではないかと思います。

仮にモデル化が進み、足元の業績予想で差をつけるのが以前より難しくなった場合、バリュエーションの見極めがより重要になると推察されます。そこで、今回のレポートでは株式市場で最もよく使われるPER法のバリュエーションの基本的な考え方を説明できたらと思います。

 

まず、PERを考える上で一番重要なのは、利益の成長性と安定性です。利益の成長性が高いほどリターンが大きく、利益の安定性が高いほどリスクが小さい、と考えられるためです。難しいのは成長性と安定性の評価です。成長性については、バリュー投資理論の考案者であるベンジャミン・グレアムにならって、過去3年間(2014年-2016年)の平均EPSと、10年前(2004年-2006年)の同様の数字を比較すると、例えばTOPIXは+32%、花王は+66%となり、花王はTOPIXより成長性が高いと評価されます。

安定性については、できる限り長期のEPSデータを取得し、その変動率を見ます。例えば、リーマンショックが起きた時の2010年の利益変動を見ると、TOPIXが赤字転落、花王が42%減益であり、花王はTOPIXより安定性が高いと評価されます。

 

安定性評価で大事なのは、景気悪化時に利益が急減少する循環株かどうかという点です。例えば、自動車メーカーは典型的な循環株であり、景気悪化時には、(1)販売台数急減・販促費増加・工場操業度低下による自動車事業の利益減少、(2)中古車価格の低下などによる金融事業の利益減少、(3)円高による利益減少、(4)在庫増加等による財務悪化を受けた支払利息増加や増資、などからEPSが急低下します。

 

次に、成長性と安定性の評価をもとに、各企業の適用PERを決めます。S&P500とTOPIXの今期予想PER*の過去中央値が約15倍であることから、私はTOPIX並みの平均的な企業を15倍で評価しています。また、花王は今期予想PER*の過去平均が約23倍、海外同業他社も今期予想PER*の過去平均が約23倍であり、花王並みに成長性と安定性のある会社は23倍で評価しています。循環株については、同様の考えから平均的な利益水準の9倍で評価しています。つまり、循環株9倍、TOPIX15倍、花王23倍を基準に、成長性と安定性でどれくらいのPERがその企業にとって適当かを考えています。そのうえで、プラス要素(優秀な経営者・財務健全など)とマイナス要素(FCFネガティブ・株主利益を軽視した経営など)を考慮して、最終的な適用PERを決定しています。

 

続いて、EPSについてです。一時的な影響を除いて同一基準で比較をするため、EPSは、今期予想、希薄化後、実力利益(一過性損益控除後・税率正常化後・循環株は平均的な利益水準)、で考えるのが重要です。このPERとEPSが揃って初めて株価が安いか高いかの判断ができます。

最後に、具体例として、PER法で私が割安・割高だと思う株をいくつかご紹介しますが、その目的は株式の売買推奨ではなく、あくまでPER法の考え方の説明です。

 

住友商事:今期会社計画のITメディア3社(J:COM・SCSK・ショップチャンネル)の純利益構成比は約20%。3社は競争力が高く、業績も安定的に成長しており、PER15倍以上の付与が可能。その他事業がPER9倍の場合、適用PERは10.2倍以上。財務等で適用PERを10%割り引いたとしても、足元の会社計画ベースPERは割安。

 

兼松:今期会社計画の推定純利益構成比は、適用PER15倍のIT事業が約25%、適用PER10倍のドコモ系携帯代理店事業が約20%、適用PER9倍のその他事業が約55%であり、適用PERは10.7倍。コングロマリットディスカウント等で適用PERを10%割り引いたとしても、足元の会社計画ベースPERは割安。

 

人材派遣株全般:PER20-30倍という安定成長株のバリュエーションで取引されているが、人材ビジネスは景気悪化とともに利益が急減するシクリカルな事業。リーマンショック以降に上場した企業が多いことから人材株の安定性は過大評価されており、割高。

 

*厳密には会計基準を揃えた12カ月先予想PERを使うべきですが、今回は簡略化しています。

 


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