焼きなましが変える人工知能の未来

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2017/8/21

株式運用第一部

永田 芳樹

 

※このレポートでは、日本株ファンドマネージャーが注目しているトピックなどを毎週お届けします。

 

先月、東北大学大学院の大関准教授とお話する機会がありました。大関准教授は今注目されつつある量子コンピューターの中でも、新しい方式の量子アニーリングに関する日本では数少ない専門家です。量子アニーリング(Quantum annealing,量子焼きなまし法)とはなんでしょうか?量子アニーリングの「量子」は量子力学の性質の利用を、「アニーリング」はゆっくりと冷やし内部のひずみを取り除き均質化させることを意味します。つまり、量子効果を制御して最適化問題を解く手法の一つといえます。

 

我々が日々触れる、画像などのパターン認識、自然言語処理、医療診断などの様々な事象は、最適化問題に置き換えられます。実は、現実社会で活用されている自動運転などの人工知能は、人間や機械の日々の行動を最適化問題に置き換え、それを解いているに過ぎません。量子アニーリングは最適化問題を解くことに特化した高速な人工知能ともいえます。

 

一般的なコンピューターと量子アニーリングの比較

上の表は一般的に使われているコンピューターと量子アニーリングの違いを比べたものです。量子アニーリングが最適化問題に特化すれば次元の違うスピードで計算を実行します。例えば組み合わせ最適化問題で有名な“巡回セールスマン問題”(もっとも効率的に30か所を廻る順番を選ぶ問題)では、既存のスーパーコンピューターが1000万年かかるところを、量子アニーリングは瞬時に計算できます。

 

さらに計算量が大きい場合、これまでのコンピュータは計算量に比例して膨大な電力を消費します。一方、量子アニーリングのチップの消費電力はごくわずかです。(ただし、超電導状態をつくりだすために冷却設備分の電力は計算量の大きさにかかわらず常に必要となります。)

 

また量子アニーリングで重要なことは、最適化が行われる際の“量子力学的に励起状態(低エネルギー状態)から基底状態(最低エネルギー状態)に移る過程”だということです。一般のコンピュータの計算過程はある目的に対してプログラミングを行い、計算する手順を方向付ける必要があります。一方、量子アニーリングの場合はパラメータのみを設定し、基底状態に向け自然な時間変化を経て最適解を実現します。私が大関准教授とお話ししていて感じたのは、この過程が人間の脳の活性化に似ているということです。「頭に血が上る」という表現があるとおり、落ち着いた状態(最適化された状態)にない時、人間は思考プロセスを経て落ち着いていきます。この“脳のエネルギー状態が高い位置から低い位置に落ちる”という点が、まさに量子アニーリングによる最適化プロセスに類似していると思います。

 

私はディープラーニングをはじめとした最新の人工知能であっても、人工知能自らが想像力を発揮して新しいものを創造していくことには懐疑的です。神経細胞で相互に結びつき影響を与えながら考えていく人間の脳と、一般的なノイマン型コンピュータをベースとする人工知能ではそもそも設計思想が異なるからです。ただ前述の通り、量子アニーリングは励起状態から基底状態にエネルギーが遷移することを利用している点が人間の脳の仕組みに似ています。そのため、“想像力を持つ人間の脳のような人工知能”の実現に向けて、量子アニーリングはソリューションになるかもしれません。

 

量子アニーリングを用いた商用量子コンピュータは、カナダのベンチャー企業D-Waveが2010年に実用化するなど、既に多くの企業が数十億円のこの装置を購入しています。例えばロッキード・マーチンは航空機のデバッグ対処のために取り入れており、フォルクスワーゲンは交通量の最適化問題に活用しています。日本企業でもリクルートがインターネット広告配信分野ですでに活用し始めています。広告配信のベースとなる年齢、居住地といった属性データの組み合わせを量子アニーリングによって高速処理をし、他社が追いつけないサービスを提供しようとしています。

また小型株ではITサービスベンダーのフィックスターズが、D-Wave社と協業を発表しました。今後、日本企業に量子コンピュータの導入や設計などの、コンサルティングを行っていきます。D-Waveの装置自体は高額ですが、装置の貸し出しを行っている企業もあり、数百万円程度のリーズナブルな費用で量子コンピュータを使用することができます。その他ブレインパッドなど本格的な機械学習関連ビジネスを手掛ける企業も、量子アニーリングに注目しています。

 

グーグルやIBMも量子コンピュータに取り組んでおり、ディープラーニングの次の注目技術として、今後ますます目が離せません。

 

 


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