クラウド関連株の投資法~あるIT企業のケーススタディ~

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2017/10/16

株式運用第一部

上石 卓矢

 

※このレポートでは、日本株ファンドマネージャーが注目しているトピックなどを毎週お届けします。

 

「新規システムのプロジェクトを始める際には、クラウドファーストであることを義務付けた」。三菱東京UFJ銀行の亀田浩樹執行役員システム本部長の『IT pro EXPO 2017』での印象的な発言です。というのは、セキュリティなどの観点から、金融機関は非クラウド型のサービスを使うことが多く、それが日本の伝統的なIT企業の業績を支えてきたためです。しかし、クラウド化が進展すると、IT業界内での勝ち組・負け組がはっきり分かれ、業界の顔ぶれが大きく変化する可能性があります。実際、私が米国株式を担当していた2010年頃は、セールスフォース・ドットコムを始めとしたクラウド関連成長株が次々と誕生し、相場の中心となっていました。もし日本でクラウド相場が誕生した場合、どのように投資をすれば良いのでしょうか。

 

結論としては、クラウドへのビジネスモデル移行期には業績が悪化するが、移行後は業績が急回復すると同時に安定するため、四半期業績の黒字化が見えてきた段階で投資をするのが良い、と考えます。以下、クラウドビジネスに先行して取り組んだあるIT企業の事例を用いて説明します。

 

このIT企業はもともとパッケージシステムを開発・販売していた会社でした。このシステムは売り切りのため製品の更新時には保守料を含めた売上が計上されます。顧客は更新タイミングでシステムを買い替えますが、その時の景気動向によって業績が大きく変動するというのがこのビジネスモデルの問題点でした。

 

同社は利益の安定化を図るため、2008年のクラウド全面対応の新製品発売とともに、フロー型のビジネスモデルからストック型の月額基本料+従量課金モデルへの移行を決定しました。そのため、クラウド製品提供に必要なデータセンター投資を行い、フリーキャッシュフローやネットD/Eレシオが大きく悪化しました。また、新製品の導入時には、従来のような5年分の売上一括計上ができないため、2期連続の営業赤字となった他、財務も一段と悪化しました。ただし、クラウド型の新製品にはコスト削減や変動費化といったメリットがあることから顧客獲得が順調に進んだほか、ひとたび契約がとれれば利益が積みあがっていくストック型のビジネスモデルのため、2012年度からは利益やキャッシュフローが以前より安定するようになり、2015年度には財務も再び実質無借金となりました。

 

さて、同社の株価ですが、相対パフォーマンスのボトムは2009年の初めであり、四半期営業利益が2009年度の後半に黒字化するのに先行して、株価は上昇していました。つまり、クラウド関連企業の投資時期で一番良いのは、四半期業績の黒字化が間近に見えてきた段階、というのが同社の事例からの教訓です。クラウドに限らず、フロー型ビジネスからストック型ビジネスへの移行期の企業にも、同じことが言えるのではないでしょうか。

  あるIT企業の営業利益と株価の推移                          ※株価は2005年度を100として指数化 

                          出所:各種データをもとに大和住銀投信投資顧問作成

 

あるIT企業のビジネスモデル移行時の業績変化のイメージ

          出所:各種データをもとに大和住銀投信投資顧問作成

 

なお、クラウドビジネスへの移行は、経営者の強いリーダーシップや一時的な業績悪化に耐えられる良好な財務が不可欠なため、競合他社が追随しづらいことが、同社の競争優位性につながっています。また、クラウド上に蓄積したデータは会社の財産となり、データを活かした次の事業へとつながっていきそうです。最近新興IT企業を取材する中で、同社のようなクラウドビジネスへの移行に成功した会社がちらほら出てきました。クラウド相場到来の前触れかもしれません。

 


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