「ESGって何?」と思う方への投資家の体験談

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2017/11/27

株式運用第一部

上石 卓矢

※このレポートでは、日本株ファンドマネージャーが注目しているトピックなどを毎週お届けします。

 

ESGという単語が株式投資の世界で流行しています。Eは環境(Environment)、Sは社会(Social)、Gはガバナンス(Governance)の略であり、ESGを意識した投資が増えています。

 

私がガバナンスという言葉を最初に聞いたのは大学生のときでした。コーポレートファイナンスの授業において、この分野の定番の教科書*1が改訂されたとき、「最近注目度の高いガバナンスの章が下巻に追加されました」という大学教授のご解説をいただきました。しかし、この教科書は上巻だけで728ページとかなり分厚く、しかも当時1冊5,250円と大学生には高いもので、下巻の購入には至りませんでした。その後、企業取材を重ねるうちに、ガバナンスが日本企業のもっとも深刻な問題だと理解し、『株価が映す上場子会社のガバナンス問題』というレポートまで書くようになりましたが、もっと早めに下巻を読んでいれば株式投資のパフォーマンスがさらに良くなったのではないかと後悔しています。

 

同じ過ちを繰り返さないために、ESGという言葉を最初に聞いたときは、すぐにこの分野の定番本*2を買いました。これでばっちりかと思われたのですが、当時の私には早すぎたようで、ESGの重要性を充分理解できませんでした。EやSは企業価値評価にとって重要ではなく、業績の成長性と安定性こそが重要だと信じていました。

 

そんな私が「何かおかしいぞ」と最初に思ったのは三菱商事の決算説明会です。同社の業績は資源高などから堅調だったのですが、質疑応答でアナリストが一般炭(主に発電用に使われる石炭)の環境への影響を指摘したところ、同社はすぐに一般炭の権益を売却しました。一般炭は利益を稼ぐ事業で、市況も良かったため、業績以外の論理で企業が事業を売却することもあるのかと驚きました。

 

次に何かが起きていると思ったのは、石炭火力発電所の設備投資について調査していたときのことです。最初は設備投資関連企業の受注が会社計画を下回りました。各社は受注が翌年にずれたと説明し、景気回復とともに受注が戻ると多くの人が考えていました。しかし、翌年には景気サイクルに逆行して受注が落ちはじめ、割安にみえた関連企業の株価も一段と低迷しました。その理由を企業に取材すると、環境問題を理由に電力会社が石炭火力発電所の投資を延期・中止しており、構造的に石炭火力の設備投資は減少するだろう、とのことでした。Eによってひとつの事業が実際に縮小に向かう瞬間を目の当たりにしました。

 

さらに、非連続的な変化が起きていると思ったのは、長時間労働が社会問題化したときです。問題になる前は、労働時間が長い会社ほど株価が上昇していました*3 。ところが、問題になった後は、長時間労働を是正する社会的な圧力がはたらき、ハードワーキングで有名ないくつかの企業の業績が想像以上に低迷し、株価も下落しました。Sによって、これまでの投資の常識が崩れる瞬間でした。

 

最近企業に取材をすると「ESGは投資家にとって重要ですか?」と聞かれることがあります。上述のように既に大きな影響が出ていることから、私は「重要です」と答えています。将来ESGという単語は変わるかもしれませんが、企業の影響力の増大によって企業の行動に責任を求められるようになったこと、非政府組織やメディア監視の強化でフリーライドが許されなくなったことは今後も変わらないと考えています。

 

ESGは、金融機関も含めた企業が開示を良くしたり、体制を作るだけで済む問題ではなく、ESGで問題のある事業の存続を不可能にし、多くの企業の業績を非連続的に変化させるものだと思います。

 

 

*1  リチャード・ブリーリー、スチュワート・マイヤーズ、フランクリン・アレン(2007)      

   『コーポレート ファイナンス 第8版 上』日経BP社

*2  水口剛(2013)『責任ある投資ー資金の流れで未来を変える』岩波書店

*3  Vorkers(2016)『残業と株価の相関関係』

 


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