繊維業界、変化の兆し

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2017/12/4

株式運用第一部

永田 芳樹

※このレポートでは、日本株ファンドマネージャーが注目しているトピックなどを毎週お届けします。

 

「衣食足りて礼節を知る」ということわざがあるように、「衣」は人間らしく生きるためにもっとも重要なものの一つです。その「衣」を司る繊維関連株は今でこそ伝統があるが故にバリュー株と評価される株も多いのですが、世界の歴史を紐解くと人類史上もっともイノベーティブな産業の一つです。18世紀からのイギリスの産業革命はそれまでの特権的な毛織物工業から、自由な競争の綿工業へのシフトによって起こりました。これは熟練職人やギルドが支配してきたがために変化に鈍足な毛織物工業が、生産性の向上を追求する綿工業の成長を促し、紡織(綿糸を紡ぐ工程)と、織布(綿糸で布を織る工程)の機械化が工業化をけん引しました。まさに現代のAIが人の仕事を侵食するような、大きなイノベーションでした。

 

日本でも繊維産業は工業化の重要な役割を果たしました。1872年に操業を開始した世界遺産の富岡製糸場は、フランスの技術が導入された最新鋭設備を持つ工場でした。繭を紡いで出来た生糸は日本の重要な輸出品となり、生糸を運ぶために高崎線や山手線、また横浜港から輸出するために八高線などができました。生糸産業は鉄道輸送の発展に多大な貢献をしたのです。また地銀の大手である横浜銀行は現在も群馬県に3支店を持ちます。これも横浜銀行が生糸の発展に由来を持つことが理由であり、明治時代初期に製糸業は各地の発展の重要な礎を築きました。さらに、日本の製糸業の生産性を飛躍的に発展させたG型自動織機は豊田自動織機製作所製であり、同社は後にトヨタ自動車につながります。

 

このように日本の産業の土台となった繊維産業では、1880年以降多くの紡績会社が設立されました。倉敷紡績所(現クラボウ)、伝法紡績(現シキボウ)、鐘ヶ淵紡績(旧鐘紡)、大日本紡績(現ユニチカ)、郡山絹糸紡績(現日東紡)、グンゼなど、多くの紡績会社が輸出産業としてだけでなく多角化でも最先端の企業として、日本経済をけん引しました。紡績会社が就職ランキング上位であり株式時価もトップだった時代もあったのです。

 

しかし、現在の紡績会社は、残念ながら当時のような勢いはありません。トップ企業の鐘紡はすでになくなってしまいました。またその他の会社も、時価総額が1,000億円以下というところも多く、過去の長い歴史を考えると停滞していると言えます。歴史があるがために不動産は低い簿価で保有していますが、既存事業のエッジは足りませんでした。

 

一方、1920年頃から旭絹織(現旭化成)、東洋レーヨン(現東レ)、倉敷レーヨン(現クラレ)などの企業が人造絹糸(レーヨン)の開発によって躍進し、今では世界をけん引する素材企業へと発展しました。もちろん、一足早く1880年頃に創業された紡績会社も新素材への対応を試みましたが、今のITのスタートアップ企業のごとく、既存ビジネスにとらわれずより良いものを追求するレーヨン系の企業にはスピードでついていけず、現在では時価総額でみると大きな差がついています。

 

しかし近年では、きらりと光るものが見えてきた紡績会社が増えています。日東紡はスマホや電子基板向け材料で急成長しています。またグンゼは医療用材料やイノベーティブなカット方法の下着などで、業績が回復しはじめました。ユニチカは2014年から優先株を発行するなどして大きな特別損失を出し、成長力の高いガラス繊維に投資する意欲が見えてきました。

 

これらの企業は過去、不動産や市場の大きな主力ビジネスを持つがゆえに、あまりイノベーションを追求する必要がなかった中、時代の変化とともに停滞していった会社です。100年の時を経て、これらの企業にも大きな変化の兆しが見えてきました。このようなバリュー株の変化は、小型株マネジャーとして大きな投資チャンスを感じます。

 

 


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