ESGで企業価値が向上する会社、毀損する会社

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2017/12/18

株式運用第一部

上石 卓矢

※このレポートでは、日本株ファンドマネージャーが注目しているトピックなどを毎週お届けします。

 

ESGという言葉が注目されるようになったのは2006年4月のことです。国連が世界の投資家に向けて「世界規模の課題にもっと目を向けてほしい」と呼びかけたことがきっかけでした。そのため、ESGのもともとの目的は投資家を通じて企業行動を変えることであり、ESGが企業価値を向上させるかについての議論は二の次となっています。今回のレポートでは、国連ではなく投資家の目線で、ESGが企業価値を向上あるいは毀損させる可能性について考えてみたいと思います。

 

まず、G(=Governance)が企業価値を向上させる、というのは比較的わかりやすいと思われます。プリンシパル・エージェント理論で説明されるように、所有と経営が分離している株式会社においては、株主と経営者の利害が必ずしも一致せず、両者の情報に差があることから、経営者が株主の利益を無視して経営を行う可能性があります。例えば、会社の安定性を過度に重視して不必要な現金をためこんだり、ポストを増やすために非効率な事業に投資をしたり、といった具合です。こうした問題を回避するための仕組みとして、コーポレートガバナンスがあり、Gの優れた企業の方が企業価値が高まる、と考えられます。

 

E(=Environment)については、水資源、エネルギー、気候変動、海洋資源、陸上生態系、などさまざまな項目がありますが、外部性が顕在化する際に企業価値が変動する、というのが私の考えです。例えば、自動車業界では各社がただ環境にやさしい車を開発するだけでは企業価値が大きく変動しませんが、燃費規制の導入によってCO2排出などの外部不経済が顕在化すると、規制に適合できない車のシェアが下がります。そのため、Eが企業価値に与える影響を測定する際には規制の内容が大事だと思われます。仮にCO2排出量が一緒だったとしても、中国のNEV規制においては、EVの価値は高くなり、ハイブリット車の価値は低くなります。また、最近では非政府機関やメディアによって外部性が顕在化するケースも増えており、この場合には顕在化する確率と顕在化した場合の影響度が重要だと推察されます。

 

S(=Social)については、大きく3つに分類されます。1つ目は、Eと同じく外部性が顕在化する際に企業価値が変動する項目です。典型例は過酷な労働環境で、最近話題の外国人技能実習生のように、メディアが報じる前は企業は安い人件費を享受できますが、社会問題になると労働者を酷使してきたコストを払う必要がでてきます。

2つ目は、企業価値の向上に資する項目で、教育・健康・平等など、人的資本やブランドの価値を高めるものが該当します。工業から情報産業へと産業構造が変化する中、付加価値の源泉は実物資産から人的資本やブランドへと徐々に移行しており、こうした財務諸表にはあらわれない資産の価値を測定するというのが、Sに注目する1つの意義だと思います。

3つ目は企業価値を毀損させる項目です。Sには企業価値向上とは無関係な政策項目も散見され、企業がこうした項目を寄付のように行い、投下した資産に対してブランドなどの価値が上がらない場合には、企業価値を毀損していると言えるかと思います。この点がESG投資への懐疑的な見方へとつながっているため、こうした社会課題を解決する企業は、本業を通じて行っているかどうかで評価するべきだと考えています。

 

 


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