投資家が育休を取得してみた~半径1キロの生活~

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2018/4/16

株式運用第一部

上石 卓矢

 

※このレポートでは、日本株ファンドマネージャーが注目しているトピックなどを毎週お届けします。

 

つい最近、我が家に女の子が誕生したため、育児休暇を取得しました。まず出産に立ち会いましたが、妻に「チョコ食べる?」などと声をかける以外に出来ることがなく、男はなんて役立たずなんだろうと痛感しました。

 

育休取得中に驚いたのは、人生の半径が劇的に小さくなったことです。育休取得前は、米国の経済指標を分析したり、欧州顧客の前でプレゼンをしたり、イスラエルの見知らぬ街で最終バスのチケットが取れず必死に運転手と交渉してバスの床で寝たり、エベレストのベースキャンプで酸素濃度が死亡危険水域まで急低下した友人のために酸素ボンベを運んだりしていました。一方、育休取得中は、朝に家事をし、昼は病院で妻の看護をし、夜はスーパーで買い物をし、帰宅後は残りの家事をする、という生活に変わりました。妻の退院後は、そこに子供の世話と行政手続きと保育園探しが加わったものの、すべての日常生活が家から半径1キロ以内の距離で完結するようになりました。閉塞感と静かな喜びが同居しています。

 

これを半径1キロの生活と名付けた場合、果たしてこうした人々の価値観はマーケットに反映されているのでしょうか。私は半径1キロの生活が投資家から見落とされていると感じています。それは資産運用業界の大半が40-50代の男性の正社員であるためです。今年大型IPOが予定されているメルカリを例にとると、半径1キロの生活者視点がなければ、どうして数百円のものを時間をかけて売ったり買ったりするのか分からないかもしれません。しかし、半径1キロの生活を送る人にとって、メルカリは恐らく人生の半径を広げてくれるアプリであり、日用品の売買は普段感謝されにくい家事が認められる数少ない瞬間です。こうした視点に立てば、メルカリの企業価値や競合サービスへの認識が変わってきます。

 

日本の雇用見通しでも半径1キロの生活者視点は役立ちます。2010年以降の日本の就業者数の増加は大半が女性によるものですが、雇用形態別では非正規雇用労働者だけが増えています。これに伴う実労働時間の減少を通じて賃金の伸びが抑制されている、というのは平成29年度版労働経済の分析というレポートを見れば一目瞭然です。重要なのは将来予測ですが、保育園を丹念に探した経験があれば、(A)割安な価格による超過需要と保育士不足という供給制約によって保育園不足が深刻であり、(B)これによって保育士資格を持たないアルバイト中心で運営する高リスクな保育園が増えていることから弾力運用といった規制緩和も一本道では進まず、(C)運良く入園できても保育時間に働き方が規定されるため実労働時間を増やすのは難しく、結果として賃金が大幅に上昇する可能性は低いという仮説を持つようになるはずです。

 

この仮説にたてば、賃金トレンドを変えるには子供の世話をする人数が増える必要があり、最低賃金規制やビザ発給要件の緩和による外国人保育士の増加、孫の面倒を見る親の増加、短時間労働高給業務の増加、などが重要となってきます。また、投資へのインプリケーションとしては、柔軟な出退社時間や短時間勤務が根付いている会社が人材採用で非常に有利であり、成長する可能性も高いのではないでしょうか。

 

育休から復帰したことで、マクロの経済分析とミクロの企業取材の日々が再びはじまりますが、折にふれて半径1キロの生活を思いだし、マーケットから見落とされている価値を発見していけたらと思います。

  


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