通貨と株式市場-「通貨安=株高」は本当か?(その5)

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2016/8/10

経済調査部

部長 門司 総一郎

 

 

「『通貨安=株高』は本当か?」の第5回です。長くなってきたので、いったんここまでを振り返って、その上で本題に入ります。

 

第1回と第2回では、日本では「通貨高=株安」ですが、世界的にはそうした国は日本・スイスなどわずかであり、「通貨高=株高」の国が圧倒的多数であることを紹介しました。

 

第3回では通貨と株式の関係が、高金利国では「通貨高=株高」、低金利国では「通貨高=株安」になっていることについて、その理由が世界経済の動向や投資家のリスク許容度の変化への反応が、株式では高金利国でも低金利国でも変わらないものの、通貨では低金利国と高金利国では異なることにあることを説明しました。

 

具体的には世界経済が好調な時には高金利国では「通貨高=株高」、低金利国では「通貨安=株高」。景気が悪化する時には高金利国では「通貨安=株安」、低金利国では「通貨高=株安」になります。

 

第4回では為替レートが業績に与える影響について検討しました。一般に通貨高は業績にマイナスと考えられていますが、韓国や豪州では通貨高の時に利益が増加しています。これは通貨高のマイナスよりも、世界経済好調のプラスの影響の方が大きいためです。

 

日本では世界経済が悪化する時に円高になるので、世界経済と通貨高の影響を区別できず、全て円高のせいにする傾向がありますが、実際には世界経済の影響の方が大きいと考えています。

 

以上が第1回から第4回の内容ですが、ここからが本題です。本当はそうではないのに「日本株は円高に弱い」との印象が定着している訳ですが、これはゆゆしき問題です。

 

例えば「日本株は世界経済の悪化に弱い」といわれても違和感を感じる人は少ないでしょう。どこの国の株式でも同じだからです。しかし、「円高に弱い」と言われた場合はどうでしょう。円高・円安の確率をそれぞれ50%と考えると、2回に1回は損失を被ることになります。そんな株式市場に魅力を感じる投資家は少ないと思います。

 

実際、海外の投資家とミーティングをすると、「円安でしか上がらない日本株は買えない」といわれることはしばしばです。日本人の間では常識なので疑問を感じないのでしょうが、「円高に弱い」というレッテルは外国人投資家を遠ざける効果があります。

 

8月に入って発表された主な日本の経済指標

投資家の関心が為替レートや金融政策決定会合など通貨に関連するイベントに集中するあまり、その他の要因が無視されていることも問題です。8月に入って発表されたほとんどの経済指標は前回対比で改善あるいは予想を上回っていますが、株式市場には無視されているようです。7月末から昨日まで日経平均はわずか1.2%しか上昇していません。東証株価指数(TOPIX)に至っては▲0.4%のマイナスです。

 

主要国の予想PER(月次、倍)

外国人投資家を遠ざけていることや本来評価されるべき点が評価されていないことが、日本株のバリュエーション低下につながっていると考えています。日米英独の予想PERを比較すると、英米のそれは上昇基調あるいは高止まりなのに対し、日独は低下しています。特に日本の予想PERは昨年5月末のピーク16.0倍から先月末の13.3倍まで▲16.9%低下しました。この間のTOPIXの下落率は▲21.0%ですが、そのかなりの部分はPERの低下によるものです。

 

この他に「円高に弱い日本株」のレッテルは安倍晋三政権の通貨政策にも誤った悪影響を与えていると考えています。次回はこの政策への影響について検討します。

以上

  


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