通貨と株式市場-「通貨安=株高」は本当か?(その6)

バックナンバーに戻る

2016/10/21

経済調査部

部長 門司 総一郎

 

 

「『通貨安=株高』は本当か?」の最終回です。前回から2カ月以上間が空きましたが、今回は通貨と株価の変動に関する誤った理解が政策に耐える悪影響について考えてみます。また921日に日本銀行が打ち出した金融政策の枠組み見直しが市場に与える影響についても検討します。 

 

通貨と株価の変動メカニズムに関する誤解が政策に与える弊害としてもっとも大きいのは必要以上に緩和のアクセルを踏んでしまい、大幅に金利が低下してしまうことです。

 

前にお話ししたように低金利国である日本の場合、円高になるのは世界経済の悪化などから投資家のリスク許容度が低下、海外に流出していた資金が日本に還流する時です。したがって円高を止めるためには、投資家がリスクをとるようにして資金が海外に流出する、あるいは国内に還流しないようにすることが必要ですが、これは中央銀行にはなかなかできないことです。

TOPIXとドル円レート(日次)

 

このメカニズムを理解していない場合は、金融緩和のアクセルを踏み続けることになります。日本でも、今年に入ってこれまでの量的緩和に加えてマイナス金利を導入しましたが、結果は混乱を招いただけでした。銀行などの収益性の低下や年金財政の悪化など低金利の副作用が表面化して、投資家のリスク許容度は一段と低下、円高や株安が更に進むという有様です。

 

日本以上に問題が深刻なのがユーロ圏です。ドイツ銀行やイタリアの大手銀行モンテ・パスキなどの信用不安が囁かれ、欧州発の金融危機を懸念する声もありますが、欧州中央銀行(ECB)の量的緩和やマイナス金利により、銀行の収益力が失われていることがそもそもの原因です。

 

日欧では問題を解決するための金融緩和がかえって問題を大きくしていましたが、日銀の金融政策の枠組み見直しにより、日本では状況が変わりつつあります。

 

黒田総裁が低金利の副作用を認めたこと、10年物国債の水準の目処をゼロ%程度としたことにより、際限ない金利低下への警戒感が薄らぎました。

 

マイナス金利についても黒田総裁は「更なる掘り下げも辞さず」の構えですが、世論調査で反対がかなり多い(9月の日本経済新聞の世論調査では「評価する」29%に対し「評価しない」49%)ことを見ると、掘り下げのハードルは高そうです。

 

細かいことですがこれまで「2年」としてきたデフレ脱却までの期間を「出来るだけ早期に」との表現に置き換えたことも見逃せません。期間を曖昧にすることは、日銀に対する追加緩和圧力を軽減する効果があると見ています。実際、黒田総裁は108日にワシントンで(追加の金融緩和は)「現時点で必要ない」(読売新聞、1010)と発言しましたが、追加緩和を求める声は高まりませんでした。市場参加者も円高の影響がそれほど大きくないことを理解し始めたのかもしれません。

 

今回の枠組みの変更は日銀が金融政策のみによるデフレ脱却は無理ということを認めたことになりますが、これは「デフレ脱却」を「円高阻止」に置き換えても意味は通ります。円高対策についても日銀は限界を認めました。

 

当初市場ではこの日銀の決定がどのような影響をもたらすのか計りかねていましたが、その後の動きを見ると日本株は上昇、円は対ドルで=100-105円の動きを続けています。日銀の決定は市場に好感されたといってよさそうです。これは際限ない金利低下リスクが薄らいだことが大きいと見ています。

 

10月19日付当レポート「企業業績のここに注目!-企業業績は底入れ」では「決算発表に連れて、業績は底打ちとの見方が広がり、日経平均は17000円を超えて上昇すると予想しています。」と述べましたが、この金利低下リスクの後退も、日本株を企業と同様に株価を押し上げる要因の1つと考えています。

 

 


本資料は投資判断の参考となる情報提供を目的としたもので、当社が信頼できると判断した 情報源からの情報に基づき作成したものです。情報の正確性、完全性を保証するものではありません。 本資料に記載された意見、予測等は、資料作成時点におけるレポート作成者の判断に基づくもので、 今後予告なしに変更されることがあり、また当社の他の従業員の見解と異なることがあります。 投資に関する最終決定は、投資家ご自身の判断で行うようお願い申し上げます。

PICKUPコンテンツ