米大統領選のここに注目-トランプ大統領はリスク・オン?

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2016/11/11

経済調査部

部長 門司総一郎

 

米大統領選はドナルド・トランプ氏が勝利、来年120日に大統領に就任することが決まりました。今回の「市場のここに注目!」は市場への影響の観点からトランプ新大統領の政策について考えます。

 

これまでにトランプ氏が言及した主な政策

 

経済や金融市場に直接影響しそうな政策にはインフラ投資、税制、通商政策などがありますが、その中で重要と思われるものについてコメントします。なお民主党は2010年に下院の、2014年には上院の過半数を失ったため、2期目のバラク・オバマ大統領はオバマケアを除くほとんどの看板政策についてを実現することができませんでした(オバマケアも風前の灯です)。しかし、今回上下院共に共和党が制したため、オバマ大統領に比べてトランプ氏の政策の実現性は高まりそうです。

 

まずインフラ投資です。トランプ氏はクリントン氏が主張していた金額(5年間で2750 億ドル)の倍のインフラ投資を行うとしています。近年米国では道路、橋梁、鉄道などインフラの老朽化に対する問題意識が高まっていることから、実現可能性は高いと思われます。

 

次は税制です。法人税について、トランプ氏は米国の法人税率を主要国で最も高い35%から15%に引下げることを提案しています。この法人減税には税負担を軽減することにより、今問題になっているコーポレート・インバージョン(節税目的とする企業の海外への拠点シフト)を防ぐ狙いもあります。

 

一方、個人向け減税には所得税率の簡素化に伴う税率引下げと相続税の廃止があります。共和党は基本的に減税志向なので法人向け、個人向け共に、何らかの形で実現する可能性が高いと思われます。

 

またトランプ氏は米企業が海外に留保している利益を国内に還流する時に課す法人税の税率を、1回に限り10%に引下げることも提案しています。これはジョージ・ブッシュ大統領(息子の方)2005年に時限立法で導入した本国投資法(HIA)と同様のものです。この効果で2005年は約15円の円安(ドル高)になりました。もしトランプ版HIAが成立すれば、2005年同様にドル高が予想されます。

 

インフラ投資や減税は景気や株式にプラスです。ただしトランプ氏の主張通りに実施すれば財政赤字が膨らみ、インフレ、金利上昇、ドル安などを招きかねません。そうしたリスクを避けるのは議会の役割ですが、議会がどの程度までトランプ氏にブレーキを掛けることができるかは、今後の金融市場の動きを考えるにあたっての重要なポイントです。

 

ドル円の推移

 

逆に景気や株式にマイナスと思われるのが通商政策です。環太平洋経済連携協定(TPP)成立のハードルはかなり高くなりました。それ以上に問題なのが北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しです。世界の自動車メーカーはメキシコに自動車の製造拠点を置き、そこから米国やカナダに輸出していますが、本格的にNAFTAが見直されれば、サプライチェーンが寸断されることになりかねず、世界の自動車メーカーにとって大きな脅威です(米国の自動車会社もメキシコで生産した自動車を逆輸入しています)

 

共和党は基本的に自由貿易支持なのでTPPNAFTAに賛成の議員が多く、NAFTAの見直しには反対が多いと思われます。ここでも議会がトランプ氏にブレーキを掛けることができるかどうかが注目です。

 

このようにトランプ氏の政策は全体としてみれば、景気や株式にプラスとなるものが多数です。これが大統領選後の金融市場が予想外のリスク・オンに振れた理由の1つです。しかし財政赤字の拡大やNAFTAの見直しなど1つ間違えると景気や株式に大きなリスクとなりかねない要因もあります。

 

またトランプ氏には政治や行政の経験がありません。選挙中に共和党の執行部と対立したため、与党の全面的な支援を受けることができるかどうかも不透明です。

 

日本の民主党は20099月に自民党から政権を奪取したものの、経験不足や党内抗争などで政権運営が上手く行かず、政治が景気や株式のリスクになる事態に陥りました。民主党政権の間、日経平均は低位横ばいです。トランプ政権が同様の羽目に陥ることも考えられます。

 

足元世界金融市場はトランプ勝利を好感してリスク・オンとなっていますが、本当にそうなのかどうかは、もう少し見る必要があると考えています。

 

以上

 


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