トランプ次期米大統領のここに注目-企業経営への口先介入-

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2016/12/8

経済調査部

部長 門司 総一郎

 

まだ就任前のドナルド・トランプ次期米大統領ですが、早くも積極的な企業経営への口先介入を開始しています。今回はこのトランプ氏の動きについて考えます。

企業に対するトランプ氏の口先介入

トランプ氏は米国の雇用維持を大統領選で公約に掲げており、選挙期間中から海外への工場移転を計画する企業などへの非難を続けていました。例えば、メキシコへの工場移転を予定しているユナイテッド・テクノロジー(UTX)傘下の空調メーカー、キヤリアに対して「自分が大統領に就任した場合、キヤリアがメキシコで生産する製品に高率の関税を課す」(ブルームバーグ、1130)と表明していました。更に124日には特定の企業でなく「製造拠点を(メキシコや中国など)米国外に移転する米企業の輸入品に対して新たに重税を課す」(ブルームバーグ、125)考えを明らかにしました。

 

介入の対象は、工場の海外移転だけではありません。ボーイングに対しては発注している大統領専用機の金額が高すぎるとして、キャンセルを示唆。またタイム誌とのインタビューでは、「医薬品価格を引き下げる。医薬品価格をめぐって起きている状況(注:新薬の価格高騰のこと)を私は好ましく思わない」(ブルームバーグ、128)と言明しました。

 

元々薬価引き下げは、ヒラリー・クリントン民主党候補の公約だったため、大統領選後、薬品株は買い戻されていました。しかし、127日の米株式市場ではダウ工業株30種平均やS&P500種株価指数が新高値を更新する中、トランプ氏の警告を嫌気して、薬品株は下落しました。

 

このようなトランプ氏の口先介入は、企業を予期せぬ政治リスクに晒すことになるため、望ましいものではありません。米国でビジネスを行う上での不透明感は著しく高まるので、企業経営者が設備投資に慎重になることも予想されます。

製造業の企業から見れば、事実上製造拠点を他国に移転することによる競争力強化策を封じられたことになります。またトランプ氏の発言を見る限りでは、懲罰的な関税の対象になるのは米企業だけのようです。もしそうならば米企業は競争上不利になります。

 

実際には個別企業に懲罰的な関税を課すことは法律上難しく、トランプ氏自身もブラフのつもりと思います。ただし、そうはいっても名指しされる方は放っておくわけにいきません。この手法を続ければ、米企業はトランプ氏の発言に翻弄され、疲弊していくことになりかねません。

 

またトランプ氏自身がツイッターを通じて直接企業に働きかける手法も問題でしょう。周囲に諮らないまま、本人の思い付きだけで発信される可能性がありますが、これは予期せぬ結果を招く恐れがあります。

 

日本に類似の事例があります。2011年の菅直人首相(当時)による中部電力浜岡原発運転停止要請です。この要請の結果、浜岡原発のみならず日本中の原発が運転を停止することになり、経済や株式市場に大きな混乱を招きました。トランプ氏のツイッターによる口先介入は、それと同じリスクを内包するものです。

 

もっとも現在は政権発足前であり、トランプ氏も私人なので、思うままにふるまっている部分もあるでしょう。大統領に就任すれば、担当閣僚などと協議して物事を進めることになり、今までの様な振る舞いは少なくなるのではないかと思いますが..

 

大統領選からここまで日米の株式市場は上昇を続けてきましたが、この上昇についてはトランプ氏の政策の都合のよいところだけにスポットライトを当てたものとの見方があります。しかし、市場とトランプ氏のハネムーン期間はそろそろ終了。今後市場はこの口先介入をも含む、トランプ氏の負の面にも向いあわねばなりませんが、そうした中においては、大統領選前に予想されたような波乱含みの展開になる可能性もあると考えています。

 

以上

 


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