トランプ次期米大統領のここに注目-閣僚人事のポイント-

バックナンバーに戻る

2016/12/29

大和住銀投信投資顧問 経済調査部

部長 門司 総一郎

 

国家通商会議の新設とピーター・ナバロ氏の通商担当補佐官指名で、トランプ次期米大統領の主要閣僚・閣僚級人事(以下、単に閣僚または閣僚人事)は一段落となりました。今回はここまでの人事を見ながら、今後の政権運営の方向性や市場への影響について検討します。

トランプ政権の閣僚及び閣僚級高官

この人事の特徴は2つあります。1つは経済界出身者が多いことです。表の出身欄では政治家10名、経済界8名となっており、拮抗しています。他に軍出身者が4名と多いことも特徴で、日本経済新聞(12月14日)はこの政権を「軍人・CEO(最高経営責任者)」政権と呼んでいます(内務長官に指名されたライアン・ジンキ下院議員は海兵隊出身のため、政治家と軍の両方に含めています)。

 

もう1つの特徴は、反オバマ色が強い布陣ということです。この人事にはオバマ大統領が在任中に進めた政策を潰すことを意図したと見られるものが少なくありません。

 

例えば司法長官に指名されたジェフ・セッションズ氏ですが、不法移民に対する厳しい態度で知られる人物です。移民に対する規制強化を意図した人事と思われますが、不法移民に合法化の道を開こうとしたオバマ氏の政策に逆行することになります。

 

また労働長官に指名されたのは、オバマ政権の最低賃金引上げに反対するCKE・レストランズのパズダーCEO、保険福祉長官に指名されたのはオバマケアに反対のトム・プライス氏。この他にも、エネルギー長官に石油や天然ガス掘削関係の規制緩和を主張するリック・ペリー氏、環境保護局長官に地球温暖化対策に反対のスコット・プルイット氏など、いずれもオバマ政権の看板政策に反対の人物が担当閣僚として指名されています。

 

対外政策でも対イラン強硬派として知られるジェームズ・マティス氏が国防長官に、環太平洋経済連携協定(TPP)に反対のナバロ氏が通商担当の大統領補佐官に指名されるなど、オバマ政権全否定といった様相です。トランプ氏が大統領になったのは、オバマ氏に嫌がらせをしたいためではないかと思えるほどですが、これがもう1つの特徴です。

 

ちなみに市場が最も関心を持っている人事はジェネット・イエレン米連邦準備制度理事会議長の去就ですが、この観点からオバマ政権下で議長に就任したイエレン氏の留任は当然ないと思われます。

 

以上がトランプ氏の人事の特徴ですが、この人事は先行きに不安を残すもので、評価できるものではないと考えています。以下、その理由について述べます。

 

まず大統領が政治や行政の未経験者の場合、脇をベテランで固めるのが定石ですが、そうなっておらず、政治家は閣僚の約半数に過ぎません。しかもその半数も癖のある人物が多く、実務に優れたバランス感覚のあるベテランという感じではありません。これが今回の人事に不安を抱く理由の1つです。

 

次に閣僚間のコミュニケーションの問題があります。今回閣僚に指名された人物は経済界出身、政治家出身、軍出身の3つのグループに分類できます。経済界や政界など同じグル―プに分類される閣僚の間ではお互いに面識もあり、意思疎通にも問題はないと思いますが、異なるグループに所属する閣僚の間ではそもそも面識もなく、意思疎通が上手く行かないリスクがあります。これも不安材料の1つです。

 

グループ横断的な意思疎通が上手く行かなければ、意見の対立が発生する恐れがあります。今回の人事では政権の要となる国務長官がなかなか決まりませんでしたが、このポストについて次期閣僚の間で意見の対立がありました。共和党との関係修復を重視するペンス氏やプリーバス氏が前回の大統領選で共和党候補だったミット・ロムニー氏を推す一方、軍出身のフリン氏は元軍幹部のデービッド・ペトレアス氏を推したと報じられています。

 

結果、トランプ氏が選んだのはどちらでもなく、エクソンモービルのCEOレックス・ティラーソン氏でした。痛み分けといったところでしょう。もちろん意見に違いがあることは当たり前ですが、個性的なメンバーが多いので心配です。

 

そもそも現在指名されている人物が無事にそのポストに就けるかどうかも分かりません。12月16日のウォールストリート・ジャーナルは通常の閣僚選定プロセスで行われる次期大統領による私的な候補者の身辺調査(いわゆる「身体検査」)が充分に行われていない可能性があると述べていますが、その場合閣僚就任のために必要な上院の承認獲得が難航する恐れがあります。経済界出身の人物の場合は利益相反の問題もあるのでなおさらです。市場はトランプ氏の政策に注目していますが、それ以前にまず政権が問題なく発足できるかどうかに注目すべきでしょう。

 

政策についてもこの人事は不安を残すものです。トランプ氏の政策の中で経済や株式にマイナスになる恐れがある保護主義的な通商政策や移民に対する規制強化などについて、「トランプ氏も大統領になればおとなしくなるだろう」と高を括っている向きも多いようですが、今回の人事では保護貿易や移民に関する規制に積極的な人物が担当閣僚に任命されています。楽観は禁物といえそうです。

 

12月8日付の当コラム「トランプ次期米大統領のここに注目-企業経営への口先介入」では、「今後市場はこの口先介入をも含む、トランプ氏の負の面にも向いあわねばなりませんが、そうした中においては、大統領選前に予想されたような波乱含みの展開になる可能性もある」と述べました。今回の人事はそうしたリスクが依然としてあることを物語っているとの見方です。

 

 


 

本資料は投資判断の参考となる情報提供を目的としたもので、当社が信頼できると判断した 情報源からの情報に基づき作成したものです。情報の正確性、完全性を保証するものではありません。 本資料に記載された意見、予測等は、資料作成時点におけるレポート作成者の判断に基づくもので、 今後予告なしに変更されることがあり、また当社の他の従業員の見解と異なることがあります。 投資に関する最終決定は、投資家ご自身の判断で行うようお願い申し上げます。

PICKUPコンテンツ