トランプ次期米大統領のここに注目-ドル安政策への転換は杞憂

バックナンバーに戻る

2017/1/20

経済調査部

部長 門司総一郎

 

就任を間近に控えても言いたい放題のドナルド・トランプ次期米大統領ですが、その発言はついに為替市場に及びました。今回はトランプ氏の通貨政策(?)について考えてみます。

ドル円レートの推移

 

1月17日付ウォールストリート・ジャーナルに掲載されたインタビューでトランプ氏は「ドルは強すぎる」と発言しました。この報道を受けてドルが売られ、対円では一時1ドル=112.6円、対ユーロでは1ユーロ=1.072ドルまでドル安が進みました。

 

この発言については、a.ドルが全般に強すぎる、b.人民元という特定の通貨に対してドルが強すぎる、の2つの解釈があります。どちらにもとれますが、自分は後者に重点があると見ています。理由は3つあります。

 

第1の理由は記事の中で“in part because China holds down its currency, Yuen”(中国の人民元安誘導のせいもあってドルが強い)と明確に人民元に言及していることです。この後で「そのせいで米企業は中国企業に太刀打ちできないとも発言しています」。(注:この部分は118日ウォールストリート・ジャーナル、アジア版からの引用です)

 

2番目はトランプ氏の性格です。これまでの言動を見るとトランプ氏は、特定の企業や個人、国家などを攻撃することが多く、不特定多数を相手にすることは余りありません。今回も不特定多数の通貨に対してドルが強すぎると主張しているのでなく、人民元という特定の通貨を対象にしたと考える方が自然でしょう。

 

3番目の理由はオペレ―ションの問題です。この発言の趣旨が中国との貿易不均衡を問題とし、その是正の取引材料として人民元を用いることにあるのなら、米政府がドル安誘導する必要はありません。中国政府に人民元を切り上げさせればよい訳です。通貨管理を認める代わりに中国に輸出規制を呑ませる、米国からの輸入増加を約束させるなどの着地点もあります。

 

しかし、不特定多数の通貨を相手にドル安誘導するのは大変なことです。1985年のプラザ合意のような国際協調でのドル安誘導の可能性を指摘する声もありますが、どう見ても非現実的でしょう。貿易取引に伴う通貨の売買が中心だった当時とは、国際的な資本移動の規模が桁違いですし、協力してくれる国もまずありません。

 

ドル安の手段として考えられるのは、金融政策を緩和方向に転換することですが、これも今の米景気が好調でインフレ懸念が生じつつあることを考えると現実的ではありません。

 

以上を踏まえて今回のトランプ氏の発言は、あくまで中国(人民元)を対象としたものであり、全面的なドル安政策への転換は杞憂と考えています。なお、トランプ政権で通貨政策を担当することになるスティーブン・ムニューチン次期財務長官は、昨日の上院財政委員会の指名承認公聴会で、「強いドルは長期的には重要だ」(ブルームバーグ、120)と述べ、トランプ氏の発言については「次期大統領がドルについて発言した際、長期を意識した発言とは意図していなかった」()と弁明しました。

 

人民元同様にトランプ氏が貿易不均衡の是正のため、円の高め誘導を求める可能性はありますが、順番としては中国の後でしょう。米国の貿易相手国別赤字で日本は中国・ドイツに次ぐ3番目であること、またトランプ氏は貿易赤字についてこそ日本に言及しますが、全般的には日本よりもドイツや欧州に対する厳しい発言が目立つことを考えると、トランプ氏の標的になるのは円よりもユーロが先になりそうな気がします。

 

もっとも、そうはいっても次に何が飛んでくるかわからないトランプ氏のことです。安倍晋三首相としては機会をとらえて、日本の立場を説明すると共に、米中の2国間交渉をしっかり分析して対応を練っておくべきでしょう。

以上

 

 


本資料は投資判断の参考となる情報提供を目的としたもので、当社が信頼できると判断した 情報源からの情報に基づき作成したものです。情報の正確性、完全性を保証するものではありません。 本資料に記載された意見、予測等は、資料作成時点におけるレポート作成者の判断に基づくもので、 今後予告なしに変更されることがあり、また当社の他の従業員の見解と異なることがあります。 投資に関する最終決定は、投資家ご自身の判断で行うようお願い申し上げます。

PICKUPコンテンツ