北朝鮮危機のここに注目-当面はにらみあい

バックナンバーに戻る

2017/4/20

経済調査部

部長 門司 総一郎

 

先週は米国のシリア攻撃に始まり、北朝鮮のミサイル発射実験に終わるという、地政学リスクに振り回された一週間でした。今回の「市場のここに注目」はシリアと北朝鮮について考えてみます。

 

まずシリアについてはこれ以上の緊張の高まりはないと見ています。中東における米国の最優先課題は「イスラム国」の壊滅であり、そのためにはアサド政権の協力が必要との認識は変わってないようです。今回の攻撃は化学兵器の使用に対する警告であり、アサド政権がこれ以上米国を刺激することがなければ、米国も追加の攻撃に踏み切ることはないでしょう。

ロシアやイランは立場上、米国を非難せざるを得ませんが、好んでことを荒立てるとは思えません。よってこの問題はいったん終わりと考えています。

 

一方北朝鮮についてはそう簡単ではありませんが、それでもいったん情勢は落ち着くと考えています。米国、北朝鮮とも先制的な軍事行動に出るとは考えにくいからです。お互い仕掛ければ、相手の反撃により自国、あるいは同盟国に甚大な被害が予想されます。当面はにらみあいが続くと考えています。

 

そうした中、米国は中国を通じて北朝鮮に圧力をかけ、核開発の凍結などを約束させた上で、交渉の席に着かせることを目指すことになります。したがって米国の戦略の成否は、中国が北朝鮮に影響力を及ぼすことができるかどうかにかかっていることになります。

 

その中国ですが、これまで北朝鮮寄りの立場をとり、国連安全保障理事会が制裁を決定してもその実行には慎重でした。しかし、今回は違います。今年2月には昨年11月に安保理が決定した北朝鮮からの石炭輸入規制を実行に移しました。しかも1-3月の輸入実績が2.2億ドルと上限(4億ドル)に届いていないにもかかわらず、年内の輸入を全面停止する厳しさです。

 

この石炭輸出は北朝鮮にとって貴重な外貨源となっているため、輸出できなくなれば、外貨が不足して必要な資材を購入できなくなり、核やミサイルの開発に支障をきたすとの見方もあります。

 

この中国の態度の変化の1番の理由はトランプ米大統領の登場です。トランプ氏に要求される前に、自発的に制裁を実行に移した訳です。それでもトランプ氏は満足せず、「中国の協力がなければ単独で行動する」と圧力をかけ、追加の行動を促しています。

 

更にトランプ氏は通商問題も絡めてきました。414日に発表された米国の為替報告書では中国の為替操作国認定が見送られましたが、これは為替で譲る代わりに北朝鮮で見返りを求める「ディール」です。大統領就任後ここまで封印されていたトランプ氏の得意技が初めて発動されました。

 

おそらく中国は今後北朝鮮への制裁を強化することになると思います。その候補としては石油の供給制限、北朝鮮からの出稼ぎ労働者の追放、北朝鮮と取引がある企業への罰則などが挙がっています。この中国の関与が北朝鮮に効果があるかどうかが、今後のポイントとなります。

 

道のりは簡単ではなさそうです。ブルームバーグは中国が王毅外相と武大偉・朝鮮半島問題特別代表が北朝鮮の代表者と会談することを求めたが、北朝鮮からは回答がなかったと報じています。

 

その一方で北朝鮮は19年ぶりとなる外交委員会の設置を決め、委員長には北朝鮮の外交を仕切るリ・スヨン朝鮮労働党副委員長を起用するなど対話の余地を探る動きも見せています。しばらくは中朝、あるいは米中朝の間の駆け引きが続きそうです。

 

とりあえず当面の軍事衝突の可能性は低く、先週高まった緊張は低下すると思われるため、金融市場はいったん円安株高に振れるでしょう。その後は中国の制裁強化と北朝鮮の反応を見ながらという展開になりそうです。

 

もう1つのポイントが59日に予定されている韓国の大統領選です。当初は左派系野党「ともに民主党」の候補、文在寅(ムンジェイン)氏の圧倒的優勢が伝えられていました。ムン氏は親北朝鮮を掲げ、開城(ケソン)工業団地プロジェクトの再開やミサイル防衛システムTHAADの配備撤回を公約としていました。ケソン工業団地は南北融和の象徴とされた事業ですが、韓国政府や企業が投資した資金が北朝鮮の核開発などに使われたとの疑惑があり、現在は閉鎖されています。

 

 しかし、最近の世論調査では別の左派系野党「国民の党」の安哲秀(アンチョルス)氏が追い上げ、接戦となっています。アン氏も左派系ですが、北朝鮮の核実験を非難し、THAAD配備にも前向きなことが、北朝鮮を警戒する保守層の支持獲得に繋がっている模様です。

 

もしムン氏が勝利して南北交流を進めれば、中国の制裁の効果が減じる一方、THAADの配備などで米韓が対立することになりかねません。こうなれば米国の戦略は瓦解、北朝鮮にとってよいシナリオをなります。ムン氏も最近は北朝鮮に対する非難を強めており、選挙で勝利しても南北融和をすぐ進めるか分かりませんが、この大統領選の結果及び新政権の北朝鮮に対する態度も東アジア情勢に大きな影響を与えると思われます。

 

以上、目先は地政学リスクがいったん低下することにより、金融市場も落ち着きを取り戻すと見ています。その後は中国の制裁強化の進展や、韓国の大統領選などをにらみながらの展開になるとの見方です。

 

以上

  


本資料は投資判断の参考となる情報提供を目的としたもので、当社が信頼できると判断した 情報源からの情報に基づき作成したものです。情報の正確性、完全性を保証するものではありません。 本資料に記載された意見、予測等は、資料作成時点におけるレポート作成者の判断に基づくもので、 今後予告なしに変更されることがあり、また当社の他の従業員の見解と異なることがあります。 投資に関する最終決定は、投資家ご自身の判断で行うようお願い申し上げます。

PICKUPコンテンツ