北朝鮮危機のここに注目-韓国大統領選の影響

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2017/5/11

経済調査部

部長 門司 総一郎

 

5月9日に行われた韓国の大統領選では左派系野党「共に民主党」の文在寅(ムン・ジェイン)候補が勝利しました。今回はこの大統領選の結果が日本の金融市場に与える影響について検討します。

 

4月20日付当コラム「北朝鮮危機のここに注目-当面はにらみあい」で述べたように、ムン氏は南北融和を掲げ、開城(ケソン)工業団地プロジェクトの再開やミサイル防衛システムTHAADの配備撤回を公約としていました。

 

ケソン工業団地は南北融和の象徴とされた事業ですが、韓国の政府や企業が投資した資金が北朝鮮の核開発などに使われたとの疑惑があり、現在は閉鎖されています。こうしたムン氏の政策は、米国にとって不安要因、北朝鮮にとっては支援要因となる可能性があります。

 

米国の対北朝鮮戦略は原子力空母カール・ビンソンなどの軍事力や中国による制裁強化により北朝鮮に圧力をかけ、核開発の凍結などの譲歩を引き出した上で対話に持ち込むといったものです。

 

この戦略は機能していたように見えます。中国は米国の要求に応じて北朝鮮からの石炭輸入を停止、石油の輸出停止もちらつかせています。北朝鮮は石油のほぼ全量を中国に依存しているため、禁輸となれば国民生活にも多大な影響が予想されます。

 

北朝鮮包囲網構築に向けた最近の動き

中国だけではありません。インドやドイツでも北朝鮮の資材輸入や外貨調達を阻む動きが見られます。ロシアは北朝鮮の羅先とウラジオストクの間に万景峰号による定期航路を設けましたが、それでも米国に配慮したためか、開設は当初予定していた58日から17日に延期されました。ロシアの北朝鮮支援についてはシリア問題で米国と駆け引きする材料となる範囲の支援に止まると見ています。北朝鮮にとってロシアはあまり期待できる相手ではないでしょう。

 

北朝鮮は4月中旬からミサイル実験などの挑発的な動きを停止しています。また51日には「我々の強力な戦争抑止力により、朝鮮半島情勢がもう1つの峠を越えた」(日本経済新聞、52)との、態度を軟化させたとも取れるメッセージを発しています。

 

こうした変化の理由としては、金日成生誕105周年のような記念日がしばらくないことに加えて、制裁強化の効果が出始めたことも考えられます。そうであれば、米・北朝鮮双方が対話を模索する動きがしばらく続き、緊張が緩和することも期待できるでしょう。この場合は、円安株高です。

 

しかし、ここで問題になるのがムン氏です。公約通りに南北融和を進めれば、米国による包囲網はしり抜けになり、北朝鮮は一息つくことが可能になります。またTHAAD配備撤回などにより米韓関係が悪化すれば、米国は北朝鮮戦略を根本から見直さざるを得なくなります。

 

このように今後ムン氏がどのような動きを見せるかは、東アジア情勢に大きな影響を与える可能性があります。ただし現時点で、早急に物事を進める可能性は低いようです。

 

大統領選後のムン氏は以前の「大統領になったらワシントンより先に平壌に行く」との発言を封印、また首相候補には知日派で知られる李洛淵(イ・ナギョン)氏を指名しました。早急に物事を進めるのでなく、とりあえずはバランスを重視して各方面との関係を改善、あるいは維持しようする姿勢に見えます。

 

ムン氏は選挙で大勝しましたが、評価されたのは雇用改善などの経済政策であり、北朝鮮との融和政策が評価された訳ではありません。逆に北朝鮮に寛容すぎると批判を浴び、一時は安哲秀(アン・チョルス)氏の追撃を許すことになりました。こうした経緯を考えると、当面は経済などの国内政策を優先し、外交は後回しとなる可能性もありそうです。

 

結論としては、ムン氏が早急に南北融和を進める可能性は低いと思われるため、今回の大統領選の結果が直ちに日本株やドル円レートに影響する可能性は低いと見ています。ただし潜在的にはムン氏の北朝鮮政策は、東アジアの地政学リスクを再度高め、円高株安を誘発する可能性があります。この点には注意が必要でしょう。

 

 

以上


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