ブラジルレアルのここに注目!-改革路線で上昇へ

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経済調査部 部長 門司 総一郎

エコノミスト 大村 悠太

 

昨年末に作成した「2015年の10サプライズ」では今年起こりうる予想外のことの1つとして「改革路線への転換が奏功、ブラジルレアルが5年ぶりに上昇」を挙げました。今年ここまでレアルは下落していますが、このサプライズが実現する確度はむしろ高まったと考えています。今回の「市場のここに注目!」は、レアルの上昇を見込む理由について説明します。

 

レアルは昨年まで対ドルで4年連続下落、今年に入ってからも下落を続けています。昨年末から3月12日まで対ドルで16%、対円でも15%下落しました。レアルはフラジャイル5(財政赤字などの構造問題を抱え、下値不安があるとされる5通貨)の1つですが、その中でも最弱です。

 

ブラジルレアルの推移(日次)とフラジャイル5通貨の対ドル騰落率(昨年末比)

 

レアル安については財政赤字に経常赤字、インフレに景気の低迷、改革に抵抗する議会と大手国有企業ペトロブラスを巡る汚職疑惑、更には国債の格下げ懸念とさまざまな要因が指摘されており、まさに悪材料てんこ盛りです。これだけ悪ければレアル安も仕方がない気がしてきますが、しかしブラジルのファンダメンタルズは、本当にそんなに悪いのでしょうか?

 

昨年10月時点の国際通貨基金(IMF)の予測では、ブラジルの財政赤字(名目GDP比)は2014年3.9%、15年3.1%。いずれもインドネシアに次いで小さい方から2番目です。経常赤字(同)は2014年、15年共に3.6%。5ヵ国中3位です。中の上といったところで、これを理由にレアルが大幅下落したのであれば、「それはちょっとおかしいんじゃないか」と思うところです。

 

フラジャイル5の財政赤字(名目GDP比)

 

インフレ率は今年に入って高まっており、昨年12月時点で前年比6.4%だった消費者物価上昇率は今年2月に7.7%に達しました。これは5ヵ国中最も高い水準です。

 

しかしブラジルのインフレ率は電気料金やバス料金などの公共料金引き上げ、干ばつの影響による食品価格の上昇などにより嵩上げされている部分があります。これらは一時的な要因であり、その影響はいずれ剥落するものです。

 

また公共料金の引き上げは財政再建のためであり、中期的にはレアルの安定を通じてインフレ抑制に寄与すると思われます。ブラジルのインフレについては割り引いて見るべきと考えています。

 

景気についても同様です。今年はマイナス成長との見方が強まっていますが、財政再建のための緊縮策やインフレ抑制のための利上げによるもので、長期的にはブラジル経済にプラスと考えるべきです。「政府の経済政策への信認向上と財政スタンスの改善が・・来年の経済成長にプラス影響をもたらす」(野村証券、Bentio Berber氏)との指摘もあります。

 

このようにレアル安の理由とされるものの中には、他国と比べればそれほど悪くないものや、中期的には逆にレアル高に寄与すると見込めるものが少なくありません。ブラジルのファンダメンタルズに関する弱気な見方は誇張されたものであり、レアルは既に売られ過ぎと考えています。

 

それ以上に注目すべきは構造改革への政府の強いコミットメントです。もともとルセフ大統領は低所得者を対象としたバラマキ色の強い政策を採用、社会保障支出の増加や賃金の下方硬直性などを通じて財政や企業の負担になっていました。また為替介入やエネルギー価格統制などを通じてしばしば経済に介入、企業がこれを嫌気して投資を控えたため、資源依存経済からの脱却は進みませんでした。

 

しかし昨年10月の大統領選で経済への政府介入を批判する野党候補の前に苦戦を余儀なくされたためか、2期目のルセフ大統領は突然改革路線に転じました。就任式での演説で財政規律を重視する立場を強調し、財務省の出身で元IMFエコノミストのジョアキン・レビ氏を財務相に指名します。レビ財務相は「基礎的財政収支(プライマリーバランス)は名目GDP比1.2%の黒字」を目標に掲げただちに財政再建に着手しました。

 

レビ財務相の財政再建策は歳出削減と歳入増加(増税及び減税措置縮小)から成ります。歳出削減は政府系金融機関や電力会社向け補助金の削減、失業保険など社会保障給付の見直しなどを含みます。またブラジルの財政年度は1-12月ですが、2015年度は予算が成立しておらず、現在は暫定予算です。しかし暫定予算では昨年と同様の支出が可能となってしまうため、特定の投資分野については上限を設けて支出を制限する工夫をしています。なお2015年の本予算は3月中(遅くとも4月)に成立する見込みです。

 

歳入増加には、ガソリンや軽油に対する燃料税引上げや輸入品増税、個人向けローンに対する金融取引税の引き上げなどの増税。また給与税減税の縮小などが含まれます。このうち給与税減税の縮小は議会の抵抗にあって成立が危ぶまれましたが、3月10日に減税縮小規模を当初案より小さくすることでレビ財務相と議会指導者が合意したとロイターが報じています。議会の抵抗はあるものの、改革を押しとどめるまでは行かないようです。

 

このように2期目のルセフ政権の政策スタンスは1期目と様変わりとなっていますが、これは元々市場参加者が望んでいた方向です。ここまで大胆な路線変更は想定外であり、「サプライズが実現する確度はむしろ高まった」とする理由です。格下げについても、財政再建を着実に進めていけば、そのリスクは低下すると見ています。

 

現在は市場参加者は景気の低迷やインフレなど改革の痛みにのみ着目しています。そのためレアルが下げ止まらない状況が続いていますが、今後改革の進展に市場参加者の関心が向かうことにより、レアルは上昇に転じると見ています。2015年の本予算の成立などが、そのきっかけになるとの見方です。

 


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