日本再興戦略のここに注目‐コーポレートガバナンス強化

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経済調査部 部長 門司 総一郎

 

今回から2015年の日本再興戦略(以下15年版)の注目点について考えていきます。今回はコーポレートガバナンス強化(以下ガバナンス強化)を取り上げます。なお前回紹介した日本再興戦略の3つのアクションプランに含まれる主な施策を表にまとめました。ご参照ください。

 

3つのアクションプラン

 

昨年の日本再興戦略(以下14年版)の冒頭には「これまでの成果」と題した簡単なレビューがありました。しかしそこで実績として掲げられたのは産業競争力強化法の成立や電気事業法の改正など法整備がほとんど。これでは市場関係者にアピールするには力不足です。14年版は株式市場に何の影響を与えることもできませんでした。

 

これに対して今年は、様々な分野で成長戦略の進展が見られるため、15年版では実績として多くの施策が紹介されると思います。その中で、最初に取り上げられるであろう施策がガバナンス強化です。

 

市場関係者にとってコーポレートガバナンスといえばまず株主還元です。昨年から今年にかけて上場企業は配当や自社株買いなどの株主還元を拡充、これが日経平均が2万円を超える力になりました。間違いなくガバナンス強化は株式市場に好影響を与えています(にもかかわらず成長戦略と意識してもらえないのが悲しいところですが..)。

 

しかしガバナンス強化が実績の筆頭と考えているのは株価を押し上げたからだけではありません。それ以上に重要なのはガバナンス強化が企業経営者の自信回復を実現したからです。

 

昨年8月29日付の当コラム「成長戦略は心を攻める」で述べたように、2013年の日本再興戦略(以下13年版)の中で安倍晋三首相は「失われた20年」について「実態悪が問題なのでなく、本当はできるのに自信を失くしてやらないことが問題」との見方を示しています。

 

またそれを踏まえて、成長戦略の役割については「企業経営者の、そして国民一人ひとりの自信を回復し『期待』を『行動』へと変えていくこと」と述べました。それから2年が経過して日本人や日本企業は自信を取り戻しつつある様に見えます。この自信回復に貢献したのがガバナンス強化です。

 

元々ガバナンス強化が成長戦略に採用されたのは、企業経営者の意識変革のためです。13年版には「株主等が企業経営者の前向きな取組を積極的に後押しするようコーポレートガバナンスを見直し、日本企業を国際競争に勝てる体質に変革する」と記されています。

 

昨年から今年にかけてスチュワードシップ・コード、コーポレートガバナンス・コード、独立社外取締役など企業と株主の対話のための環境整備が進み、企業は株主に対して自己資本利益率(ROE)目標を提示し、それを実現するための道筋を説明することを事実上義務付けられることになりました。不必要に現金抱えることも許されなくなり、成長に使うか、株主に返すかを迫られるようになりました。こうした中、大手企業中心に経営者の発想は守りから攻めに変わっていきます。

 

それを示す動きの1つがM&Aです。3月14日付日本経済新聞は「1-3月の日本企業による海外企業のM&A(合併・買収)は約4兆円と(四半期ベースで)過去最高を更新中」と述べています。このM&Aには主として2つのタイプがあります。1つは内需系企業による海外進出のための人材、ノウハウ、ネットワークなどを獲得するためのM&Aで1-3月でいえば、日本郵政による豪州の輸送企業トール・ホールディングス買収(63億ドル)などが該当します。

 

もう1つは成長の種を獲得するために優れた技術や製品を持つ企業を買収するもので、キャノンによるスウェーデンのネットワークカメラ、アクシス買収(27億ドル)などがこれに当たります。いずれのタイプも日本企業が攻めの経営姿勢に転じつつあることを示すものといえます。
日本生命は今後3年間で1兆円を内外の保険会社や資産運用会社の買収に投じる予定ですし、日本電産の永守重信会長は、内外の企業買収で2020年までに現在1兆円の売上高を5000億円上積みすることを表明しました。今後日本企業による海外企業買収が一段と加速するのは間違いないでしょう。

 

設備投資にも動きが見られます。2014年度の設備投資は消費増税の影響もあり低調でした。しかし、日本経済新聞が大手企業を対象に実施した調査によれば2015年度の設備投資計画は前年度比10.5%増、特に製造業の国内での設備投資は17.9%の大幅増です。更新投資に加え、製造拠点の国内回帰による投資が押し上げたものと思われます。

 

一方、通信などの設備投資が一巡した非製造業は2.0%増に止まりますが、海外向けに限れば19.5%増です。三井不動産によるマンハッタンの高層ビル開発など、これも内需系企業による海外進出の動きを反映したものであり、攻めの経営姿勢への転換を示す好例です。

 

ガバナンス強化は賃上げにも好影響を与えました。今年の春闘で賃金は2年連続の大幅増となりましたが、渋っていた企業側が結局大盤振る舞いとなったのは、人件費についての考え方をそれまでの「コスト」から成長のための「投資」に切り替えたからです。

 

経営者に企業を成長させる気がなければ人件費は単なるコストですが、成長を追求するのであれば人材は重要です。コストでなく、むしろ成長のために必要な投資と考えなければなりません。このように発想が変わることによって2年連続の大幅賃上げは実現しました。

 

以上のようにガバナンス強化は単に株主還元を拡充して株価を押し上げただけでなく、経営者の意識変革に大きな役割を果たしました。更にそれを通じて、「民間投資活性化」、「海外M&A、海外展開促進」、「賃金引上げの環境整備」など他の施策にも好影響を及ぼしています。これが15年版においてガバナンス強化がもっとも実績をあげた施策と位置付けられると見る理由です。

 

15年版でこのような説明がなさることにより、成長戦略はその進展が市場関係者に認知され、市場のテーマとして浮上すると見ています。特に構造的な部分で日本が変わるかどうかに注目している外国人投資家にとっては、更に日本株に投資する大きなカタリストになると期待されます。以上のような理由で、ガバナンス強化がどのように位置づけられるかが、15年版の第1の注目点と考えています。

 


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