日本再興戦略のここに注目-本当は進んでいた成長戦略

バックナンバーに戻る

経済調査部 部長 門司 総一郎

 

先日の産業競争力会議で日本再興戦略改訂2015の素案が発表されました。素案といっても全体で181ページもあるものです。おそらくほぼこのままで正式決定されると思います。

 

この素案に関する報道やエコノミストのレポートなどを見ると「目玉がない」、「小粒」などのコメントが多く、評価は今一つです。

 

ただし当コラムは以前から申し上げている通り、日本再興戦略も既に3回めなので「これから何をやる」よりも、「これまで何をやったか」の方が重要と考えています。そこで今回はこの素案において、安倍晋三政権はこれまでの成長戦略の進展をどのように自己評価しているかについて見てみます。

 

素案の冒頭には成長戦略の実績・進捗に関する定性的なレビューのコメントがあります。当コラムが予想したように内容に乏しかった昨年の日本再興戦略とは様変わりとなっています。

 

まず日本経済の現状認識は、昨年の「日本経済は大きく、かつ、確実な変化を遂げた」から「日本経済はかつての力強さを取り戻しつつある」に表現が変りました。これは上方修正といってよいでしょう。経済の好循環についてのコメントも昨年の「動き始めた」から「着実に回り始めている」に上方修正されています。

 

物価に関するコメントは、昨年は「物価動向を見てもデフレ脱却に向けて着実に前進し始めている」でしたが、今年は「(今後)GDPギャップが急速に縮小するとともに、デフレからの脱却が実現していくことが予想される」と一段と力強い表現になっています。

 

分野ごとの評価もあります。まず規制改革については農業、医療、エネルギー、雇用などの分野で「『戦後以来の』大改革を断行」と述べています。ここで指している「戦後以来」の大改革は農協改革、電力市場の自由化などを指すと思われます。

 

規制改革は進んでいないとの印象があったので、これが最初に来たことには意外感がありました。しかし改めて見ると、確かに思ったより進展があったようです。労働分野の規制改革は実績ゼロになる可能性がありましたが、派遣法改正案や同一労働同一賃金推進法案などの今国会での成立が確実になったおかげで何とか恰好がつきました。

 

企業経営者の「攻めの経営」を後押しした成長戦略としては、コーポレートガバナンス強化や法人税改革、経済連携交渉への本格的な取組の3つが挙がっています。最初の2つは問題ありませんが、3つ目は現時点で進展はほぼゼロです。

 

これは近日中の環太平洋経済連携協定(TPP)交渉大筋合意を前提としたものと思われます。昨日米上院で貿易権限法案(TPA)の討議打ち切り動議が可決され、TPA成立の可能性が高まっているため、早期のTPP大筋合意の可能性も高まっているといえます。この部分の表現は最終的に、状況の進行に合わせて修正されると思います。

 

この他にデフレ・マインド払拭のための成長戦略として、賃上げや大企業に対する下請けへの配慮の要請への言及がありました。以上述べた施策が、安倍政権が実績として評価している成長戦略です。

 

実績として紹介された施策は減反廃止のみ。あとは産業競争力強化法制定など法整備に関するコメントしかなかった昨年に比べると盛りだくさんの内容です。それだけこの1年で成長戦略が進捗したと安倍政権は考えていることになります。

 

規制改革が取り上げられたことや観光立国への言及がなかったことなどは意外でしたが、コーポレートガバナンス強化や賃上げへの言及など、安倍政権の自己評価は概ね当コラムの見方と合致します。成長戦略は確かに進展しているといってよいでしょう。

 

6月25日に日経平均はいったん20000円を割り込みました。しかしそこから急反発。本日14時20分時点ではITバブル期の高値20833円(2000年4月12日)を上回っています。ギリシャ支援交渉決着への期待感が足元の日本株上昇の主因ですが、この素案で成長戦略の進展が確認されたことも、影響していると考えています。成長戦略の進捗に対する認識が広まれば、株価は一段と押し上げられることになるでしょう。

 

本来今回は「日本再興戦略のここに注目」の最終回として、なぜ市場関係者が成長戦略の進展を認識することが日本株の上昇に繋がるのかについてお話しさせて頂く予定でしたが、素案の公表を受けて、テーマを安倍政権による成長戦略の進捗に関する自己評価に変更しました。

 

次回は、本来今回取り上げる予定だった市場関係者が成長戦略の進展を認識することと日本株の関係について考えます。

 


本資料は投資判断の参考となる情報提供を目的としたもので、当社が信頼できると判断した情報源からの情報に基づき作成したものです。情報の正確性、完全性を保証するものではありません。本資料に記載された意見、予測等は、資料作成時点における当社の判断に基づくもので、今後予告なしに変更されることがあります。投資に関する最終決定は、投資家ご自身の判断で行うようお願い申し上げます。

PICKUPコンテンツ