金融政策のここに注目-再考が望まれる日銀のETF買入れ

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2017/11/13

経済調査部

部長 門司 総一郎

 

日本銀行は金融緩和の一環として、年間約6兆円のペースで上場投資信託(ETF)を買い入れていますが、市場ではこの6兆円が未達になるとの憶測が浮上しています。今回の「市場のここに注目」は日銀のETF買入れについて考えてみました。

 

なお、この6兆円のうち3000億円は「設備・人材投資に積極的に取り組んでいる企業」の株式を組み入れたETFを、残りの5.7兆円は日経平均など株価指数に連動するETFを買入れ対象とするものです。ここからは特に断らない限り「ETF」は、後者の指数連動型のみを指すものとします。

 

日銀のETF購入

日銀は年初から9月まで、ほぼ年5.7兆円に達するペースでETFを買入れてきましたが、10月以降はペースを落としています。買入れを行ったのは10月が30日、31日の2回だけでした。ただし、11月に入ってからは、8日と10日の2回買い入れています。

 

日銀が買入れペースを落としたのは、株価が急上昇したためと見ています。日銀は、通常午前中に東証株価指数(TOPIX)や日経平均が下落した日の午後に、買入れを実施するといわれます。これは買入れコストや市場への影響を抑制するためでしょう。しかし、10月から11月にかけては日経平均が過去最高の16連騰を記録するなど、株式市場がきわめて強かったため、購入を控えたと思われます。

 

11月10日時点で年初からの累計買入れ額は4.6兆円です。ETFの買入れについて、日銀は「年間約6兆円(設備・人材ETFを含む)」と述べているだけで、暦年とも年度とも明らかにしていません。市場では日銀が年末までに目標を達成するかどうかについて様々な憶測が広がっています。

 

日銀が年内に5.7兆円の買入れを達成するためにはあと1.1兆円の買入れが必要ですが、無理に買い入れると、以下のような問題が生じる恐れがあります。

 

まず懸念すべきは、日銀の買いによって株価が押し上げられることです。以前、外国人買いとTOPIXの関係について分析した時は、1兆円の外国人買いでTOPIX5%押し上げられるとの結果が出ました。単純にこれを当てはめれば1.1兆円の買入れで、TOPIX5.5%押し上げられることになります。

これまでは、日銀の買入れが株式市場をそれほど押し上げたようには感じられなかったと思いますが、これは先ほど述べたように、日銀が市場への影響を抑えるようにしていたためです。しかし、年内に目標達成というのであれば、株価にかかわらず買入れなければならない場面が増え、影響は大きくなります。

 

更に「日銀が買う前に買おう」といういわゆる「提灯買い」が増えることも考えられます。そうなれば株価は一段と押し上げられることになるでしょう。最近株式市場が変動を増幅させながら上昇を続けていることを見ると、既にこうした買いが始まっている可能性もありそうです。

このようにして株価が上昇すれば、「株式市場をバブル化させている」として、日銀が非難を受ける可能性もありますが、それ以上に日銀にとって怖いのは、買い入れを続けている間は株価の上昇が続き、目標達成直後から下落するというシナリオです。日銀にとっての最悪シナリオでしょう。

このように、日銀が目標達成にこだわることには弊害が多く、期間や金額について柔軟に考えるべきと考えていますが、黒田東彦日銀総裁もそう考えている節があります。

 

10月31日の金融政策決定会合後の記者会見で、黒田総裁はETF買入れの6兆円(設備・人材投資ETFを含む)について、「調節方針であり、目処である国債購入の80兆円とは性格が違う」(ブルームバーグ)と述べ、金額にこだわる姿勢を示しました。しかし期間については「特定の時期を定めていない」(ブルームバーグ)と柔軟な姿勢を示しています。この発言により日銀は、年内あるいは年度内に買入れ目標を達成しなくてもよいことになったと考えていると解釈しています。黒田氏は買入れ期間を曖昧化することにより、金額についてもある程度柔軟に対応することを可能にした訳です。

 

黒田氏の考えは「達成できればよいが、できなくても無理はしない」ということだと思います。最近でも日銀は株価が弱い日にETFを買い付けるというやり方を続けており、1回の買い付け金額もこれまでとあまり変わりません。やり方を変えていないことも、この見方を裏付けると考えています。

 

そもそも日銀のETF買入れには、外国人を中心にコーポレートガバナンスや市場メカニズムの観点から批判があります。今年8月に米国を訪問して現地の投資家と意見交換した時も、ほとんどの投資家は買入れに否定的でした。主要株価指数が久しぶりの高値を回復するこのタイミングで、日銀がETF買入れについて、意義や弊害などを包括的に再考することは、望ましいことだと考えています。

 


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