TPPのここに注目!-サービス業の海外展開に追い風

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2015/10/08
経済調査部 部長 門司 総一郎

 

環太平洋経済連携協定(TPP)交渉がようやく大筋合意に達しました。今回の「市場のここに注目!」はTPPが日本経済や企業、株式市場に与える影響について考えてみます。

 

TPPは参加国の人口が合計8億人、GDPは世界全体の36%に及ぶ世界最大の自由貿易圏です。また、関税の自由化率は95%(工業製品に限れば99.9%)、サービス貿易の自由化も求められるなど質の面でもハイレベルの自由貿易協定(FTA)です。

 

加えて知的財産や環境保護、電子商取引など幅広い分野で統一ルールを策定するとしていることも特徴です。この共通ルールの策定は加盟国間の垣根を低くすることにより、域内における人やモノの動きを活性化する効果があると期待されています。

 

日本では今後人口減による国内市場の先細りが懸念されていました。TPPが発効すればきわめて大きな規模を持ち、国内同様とまでは行かなくともそれに準じる形で日本企業が活動できる市場が誕生することになります。このように長期的に予想される国内市場の縮小を補って余りある市場が誕生する。これがTPPにより日本経済や日本企業が享受しうる最大のメリットです。

 

ただし、そのためには、TPPによって与えられたアドバンテージを活かしてビジネスを拡大することが条件となります。その点でメリットが大きいと思われるのは製造業よりもサービス業、特に今後海外展開を加速させようとしているサービス企業です。

 

今でも日本では「製造業は海外、サービス業は国内」とのイメージが強く、株式市場でも「輸出関連」、「内需関連」といったことばが広く使われています。しかし、今後国内市場の縮小が予想されることから、大手の内需関連企業は海外展開を加速させています。

 

当コラムでも3月27日付「日本人は自信を取り戻したか?(その2)-意識改革を示すM&A」や6月5日付「日本再興戦略のここに注目-コーポレートガバナンス強化」などでそうした内需関連企業の動きを紹介していますが、TPPによるサービス貿易の自由化や統一ルールの策定は、そうした企業にとって大きな追い風です。

 

新興国では先進国に比べて自国企業の保護のため、小売や金融などの分野で外資企業に規制を課していることが珍しくありませんが、TPPはこうした規制の撤廃や緩和を求めています。既にマレーシアやベトナムはコンビニや銀行に関する外資規制や店舗規制の緩和を決定しました。こうした規制緩和は日本企業が現地の市場に参入する機会を広げることになります。

 

建設もTPPによるメリットが期待される分野です。TPPは加盟国に対し公共事業入札の門戸を他の加盟国企業に開くよう求めているため、日本の建設会社にとっては受注のチャンスが広がることになります。一方日本の公共事業入札は既に相当程度外資系企業にも開かれているため、TPPによって新たに失うものはほとんどないとのことです。

 

TPPのメリットとして株式市場で注目されているのは関税撤廃による利益押し上げ効果ですが、これは大きなものではありません。経産省は日本企業が他のTPP加盟国に支払っている関税を4700億円と試算していますが、これは昨年度の東証第1部上場企業の税引利益は30兆円の1.6%強に過ぎません。しかも、その効果は1回限りで、持続的な企業の成長に寄与するものではありません。

 

しかしサービス業の海外展開は、新市場の開拓やビジネスモデルの転換を通じて企業に持続的な成長をもたらす可能性があるものであり、TPPが掲げるサービス貿易の自由化や共通ルールの策定にはそれを手助けする効果があります。これがサービス業に注目すべきと考える所以です。

 

関税撤廃のメリットはミクロよりもマクロに現れる可能性があります。カギを握るのは立地競争力です。これまで東レなどが米国向けの輸出工場を日本でなく韓国に建設したことがありましたが、日本が米国とFTAを締結していなかったことが理由の1つでした。しかしTPPが発効すればこうした理由で工場が海外に流出することはなくなります。日本の立地競争力が高まる訳です。

 

もちろん立地競争力は関税だけではありません。法人減税や原発再稼働などによるエネルギーコストの削減なども合わせて進めなければなりませんが、立地競争力の改善により国内での投資や雇用が増加すれば日本経済への好影響は大きくなります。関税撤廃については、その効果を立地競争力の向上に繋げることができるかどうかがポイントです。

 

TPPの効果を包括的に判断するためには、今後TPPに参加する国が増えるかどうかや、TPP交渉の大筋合意が日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)など、他のFTA/EPA交渉に与える影響などについて考えることも必要になります。次回はそうした点について考えてみます。

 


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