TPPのここに注目!-拡大するFTAネットワーク

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2015/10/26
経済調査部 部長 門司 総一郎

 

前回に続き「TPPのここに注目!」です。今回は今後の日本の自由貿易協定(FTA)/経済連携協定(EPA)ネットワーク(以下、FTAネットワーク)の拡大について考えてみます。

 

FTAを締結した相手国の市場では関税や規制の面で第三国の企業に対して優位に立てるので、FTAネットワークは大きければ大きいほど有利です。またある国に対してFTAを締結している国の間では関税撤廃率が高いなど、自由化の度合いが高い方が有利となります。

 

主要国・地域のFTAカバー率(貿易全体に占めるFTA発効相手国との貿易の比率)を比較すると日本は5ヵ国・地域中最低です。量だけではありません。これまでの日本のFTAにおいて関税撤廃率の最高は対豪州、対フィリピンの88.4%と低く、質の面でも日本は他国の後塵を拝していました。

 

主要国/地域のFTAカバー率

 

TPPの発効により日本のFTAカバー率は35%程度に高まる見込みです。またTPPにおける日本の関税撤廃率はこれまでの最高を大きく上回る95%です(他国は99-100%ですが..)。このようにTPPは、安倍晋三政権下において日本の通商戦略の軸足が農業保護重視(守り)から企業の海外進出重視(攻め)にシフトしたことを示すものです。

 

TPPの大筋合意がきっかけとなり、日本のFTAネットワーク構築は加速すると見ています。理由は2つありますが、1つはTPP参加国の増加です。TPPの大筋合意を受け、これまで参加するかどうか様子を見ていた国々が動き出しました。こうした国々がTPPにより不利益を被る可能性があるためです。

 

例えば韓国ですが、これまでFTAネットワーク構築で大きく日本を引き離していました。しかし、TPPは韓国が他国と結んできたFTAに比べて自由化度が高いため、TPP域内で韓国企業は日本企業に比べて不利な条件での活動を余儀なくされることになります。

 

タイもTPPによる不利益が予想される国です。「ベトナムには繊維・縫製産業で、マレーシアには電器産業で競争力を失う」(タイ商工会議所大学のタナワット教授、日本経済新聞、10月7日)など、同じ東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国に対しての競争力低下が指摘されています。同様の懸念はフィリピンやインドネシアにも当てはまりそうです。

 

最もデメリットが大きいのは中国かもしれません。既に人件費の高騰などからベトナムなどに製造拠点を移す動きは始まっていますが、TPPはこの動きを加速させると思われます。外資系企業だけでなく、中国企業も製造拠点を積極的にベトナムなどに移しつつあるようです。

 

経済に対する政府の関与が強くTPP参加の条件を満たすのには時間がかかる中国は別ですが、それ以外の国々は早期のTPP参加を目指すと思われます。「2020年頃には16ヵ国に増える」(浦田秀次郎早大教授、日経、10月10日)との見方もありますが、そうなれば日本のFTAカバー率は自動的に上昇します。これが日本のFTAネットワーク拡大加速を予想する理由の1つです。

 

もう1つは、日本が参加する他のFTA交渉の加速です。例えば日本と欧州連合(EU)は2015年末までのEPA合意を目指していますが、ここまで余り進捗はありません。しかし、TPPの大筋合意をきっかけに交渉が加速すると見ています。欧州の商品が日本市場で劣勢に立つ可能性があるからです。

 

例えばワインですが、TPPによりワインの輸入関税は撤廃される予定です。そうなればフランスやイタリアのワインは米国、豪州、チリなどのワインに対して税制上不利になります。そうなるとEUは、欧州企業が不利益を被らないように、EPA交渉を加速させる必要が出てきます。

 

日中韓FTA交渉などもTPPの大筋合意をきっかけに加速する可能性があります。このようにTPPのようなメガFTAには1つが決着すれば他の交渉も進むというドミノ倒し的な効果があります。これが今後日本のFTAネットワーク構築が加速すると見ているもう1つの理由です。

 

以上述べたような理由で、今後日本のFTAネットワーク構築は加速すると見ています。2013年に公表された日本再興戦略が掲げる「貿易のFTA比率を現在の19%から、2018年までに70%に高める」との目標は、これまでほとんど進展していなかったのですが、TPPの大筋合意により達成できる可能性が出てきたと考えています。

 


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