金融政策のここに注目!-金融緩和離れする株式市場

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2015/10/30
経済調査部 部長 門司 総一郎


本日の金融政策決定会合で、日本銀行は追加緩和を見送りました。今回の決定会合に対しては追加緩和期待が強かったのですが、肩透かしとなりました。今回はこの日銀の決定について考えます。

 

追加緩和を見込む向きには3つの理由がありました。それぞれ物価、景気、株式市場についてのものですが、以下順に見ていきます。

 

まず物価ですが、8月の消費者物価指数(除く生鮮食品)は前年比0.1%の低下となりました(本日発表の9月分も同じ)。前年比マイナスは異次元緩和が始まった2013年4月以来です。「2%のインフレ目標を掲げている日銀は、この状態を放置せず何らかの行動を採るだろう」というのが追加緩和を予想する理由の1つでした。この見方はエコノミストの間で多いようです。

 

消費者物価指数(月次、前年同月比)、原油先物価格(月次、ドル/バレル、WT1、期近物)

 

ただし、この点に関して黒田東彦総裁は10月7日の決定会合後の記者会見で既に説明しています。黒田総裁は消費者物価指数(除く生鮮食品)の低下は原油安の影響が大きく、今後その影響が剥落するに伴って消費者物価指数(除く生鮮食品)は上昇に転じると見ていること、また生鮮食品とエネルギーを除く消費者物価が逆に上昇しているように、総合的に判断すると物価の基調は着実に高まっていると思われることなどを、追加緩和を見送った理由として挙げています。おそらく今回も同じでしょう。

 

次は景気ですが、足元の景気が弱いことを理由に追加緩和を見込む向きもありました。これは株式市場関係者に多い見方です。ただし、エコノミストの間では景気回復は続いており、それだけで追加緩和が必要というほど弱くはないとの見方が多かったと思います。また昨日発表された9月の鉱工業生産が予想外に強かったことも、日銀の決定を後押ししたといえます。

 

3番目の株式市場ですが、8月から9月の株安や日銀の上場投資信託(ETF)購入余力の低下を理由に追加緩和を主張する声も、株式市場関係者からありました。しかし、当然のことながら金融システム不安や景気悪化懸念などの他の理由なしに追加緩和はできません。やれば株価対策になってしまいます。また一時16000円台まで下落した日経平均は既に19000円前後まで回復しており、株安を理由にした追加緩和は必要ないとした日銀の判断は妥当でしょう。

 

以上の理由から、本日の追加緩和見送りは妥当だったと見ています。追加緩和のハードルはエコノミストや株式市場関係者が考えるよりも高いところにあるのでしょう。

 

ところで「追加緩和見送り」の報道が流れた後、一時日経平均は下落しましたが、その後は逆に上昇し、最終的には前日比147円高となりました。なぜでしょうか? 期待感が強かったのであれば失望売りから下落するのが自然です。また「日銀が追加緩和を必要と考えていることが景気や株式市場への安心感に繋がった」との解釈も無理がありそうです。

 

ここで思い起こされるのは米連邦公開市場委員会(FOMC)があった10月28日の米国株の動きです。声明文の内容が12月利上げの可能性を残すものであり、予想よりもタカ派的なものだったことからダウ工業株30種平均は一時急落しました。しかし、その後は反発に転じ、最終的には前日比200ドル近い上昇となりました。本日の日経平均の動きに似ています。

 

日米に共通するこの金融政策決定会合当日の動きは、株式市場が緩和離れを始めたことを示すものと考えています。これまで世界的に「株式市場は金融緩和頼み」の風潮がありました。しかし、出口戦略を進める米国で金融緩和は期待できず、日本でもハードルが高そうです。欧州では欧州中央銀行(ECB)が12月に追加緩和を打ち出すとの観測が高まっていますが、現在行っている量的緩和(QE)のこれ以上の増額は技術的に困難との見方が少なくありません。

 

このように大規模な金融緩和は限界にきていると考えられる状況ですが、だからといって株価が上昇しないという訳ではありません。米国の決算発表は予想を上回るものが多く、日本では9月鉱工業生産のように景気が踊り場から脱却しつつあることを示す経済指標が出ています。

 

これらのことから、株式市場は世界的に金融緩和離れを始めたと考えています。今後株式市場の見通しや投資戦略を策定するに当たっては、金融政策よりも景気や企業業績などの分析に比重を置くべきと考えています。
(注:このレポートは黒田総裁の記者会見や展望レポートの発表前に作成されたものです)

 


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