金融政策のここに注目!-米利上げ開始はこう見る

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2015/11/13
経済調査部 部長 門司 総一郎


8月から9月にかけて世界的に株式市場が下落した際には、中国経済への懸念と共に米国の利上げ開始が理由として指摘されました。しかし、足元では12月利上げ開始がほぼ確実視されているにもかかわらず、株式市場に目立った悪影響はありません。投資家の間には戸惑いもあるようです。

 

こうした投資家の問題点は短絡的な見方に陥っていることです。利上げが株式市場に与える影響を考慮する際には、単純に「利上げ=株安」と考えるのでなく、利上げを取り巻く環境や利上げ開始後の金融政策の展望なども含めて影響を検討することが必要です。今回の「市場のここに注目」はそうした観点からの分析を踏まえて、米利上げ開始が株式市場に与える影響について考えてみます。

 

まず最初は、その利上げが「良い利上げ」と「悪い利上げ」のどちらにあたるかです。前者は景気が好調、株式市場が安定している時の利上げです。利上げそのものは株式市場にとってマイナスでも、景気が好調であることがそのマイナスを相殺するため、悪影響は限定的なものに止まります。

 

一方、後者は景気の先行き不透明感が強く、株式市場が軟調なときの利上げです。もともと弱い景気や株式市場の状況が利上げによって一段と悪化する恐れがあります。

 

8月から9月にかけて米利上げに対する警戒感が株安要因となったのは、「悪い利上げ」と見なされたためです。世界経済の先行きに不透明感があり、株式市場が不安定な中で利上げすれば、火に油を注ぐようなもので、景気の悪化や株価の下落を加速させることになったでしょう。

 

9月17日の米連邦公開市場委員会(FOMC)は利上げを見送りましたが、株価は下落を続けました。これはFOMC後にイエレン議長などが年内利上げにこだわる発言を繰り返したためです。「米連邦準備制度理事会(FRB)は景気や株式市場の状況にかかわらず悪い利上げを強行しようとしている」との不安が、利上げを先送りした効果を相殺しました。

 

しかし、こうした見方はその後徐々に修正されます。9月FOMCの議事録や10月FOMCの声明文を受けて「FRBは年内利上げに固執している訳ではない」との見方が広まったためです。例えば10月28日のFOMCの声明文では利上げの有無を判断する材料として、「労働市場の状況を示す指標」、「インフレ圧力やインフレ期待の指標」、「金融・国際情勢に関するデータ」などが列挙されました。これを順守するのであれば、8-9月のような世界的な株安局面での利上げは困難ということになります。

 

このFOMCの声明文は12月利上げの可能性を残すものであり、予想よりもタカ派と受け取られました。にもかかわらず同日のダウ工業株30 種平均が前日比200ドル近く上昇したのは、上記のような理由で「悪い利上げのリスクは低下した」と市場が安心したためと考えています。

 

米S&P500と10年債利回り(週次)

 

その他に考慮すべき要因としては、市場がどの程度利上げを織り込んでいるかという点があります。今回の利上げは2013年の5月にバーナンキFRB議長(当時)が表明した量的緩和縮小の延長線上にあるものです。このバーナンキ議長の発言は市場の不意を突いたものであり、株式及び債券市場に「バーナンキ・ショック」と呼ばれる悪影響を与えました。

 

しかし、それから2年半が経過、利上げの可能性はほぼすべての投資家が認識しています。言い換えれば、利上げは相当程度市場に織り込み済みであり、あっても影響は限定的ということになります。

 

検討すべきは利上げの有無よりも、利上げ開始後の展望、例えば開始後の利上げペースや、FRBに追随する中銀の有無などです。FRBが性急なペースで利上げを続ける、あるいはFRB以外にも利上げや量的緩和の縮小に踏み切る中銀が出ることとなれば、それだけ市場への影響は大きくなります。

 

前者については開始後の利上げは、例えば3ヵ月に1回、12ヵ月で合計1%引上げなどの緩やかなペースというのが大方の見方です。この程度であれば景気や株式市場への影響は小さいでしょう。後者については、主要中銀の中で早期にFRBに追随しそうなところは見当たりません。英中銀(BOE)は利上げに前向きと見られていますが、それでも2016年中の利上げを予想する向きは少ないようです。

 

以上を踏まえて、FRBが12月に利上げを開始する可能性は高いものの、株式市場にとって大きな悪材料になる可能性は低く、投資家は過度に利上げを恐れるべきではないと考えています。

 


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