原油価格の変化が産油国に与える影響は低下

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2015/12/21

エコノミスト

千代谷 玲子 

 

<エネルギー財の価格下落> 

昨年の下半期からエネルギー価格の下落が続いている。原油が20141月末値82.72ドル/バレル→201511月末値41.65ドル/バレルに下落したのをはじめ、天然ガス、石炭の価格も40%以上下落した(図表1)。また、今月に入ってから更に原油価格は下落している。本コラムではこうした価格下落が各国の経済に与える影響について国際比較を通じて考えてみたい。

 

<エネルギー財の純輸出国には痛手となる一方、アジア各国等には恩恵に> 

GDP対比での純輸出額が大きく、価格下落がマイナスに作用する国は図表2の右側に並んでいる。具体例を挙げると、UAE、サウジアラビア、ベネズエラなどの原油の純輸出国である。一方で、エネルギー財の純輸入のGDP比が大きいシンガポール、韓国、タイなどグラフの左側に位置する国々はエネルギー財の価格下落のプラス効果が大きい。

 

エネルギー関連財価格の推移 エネルギー関連財の純輸出と価格変化に伴う損益

 

 

<原油の生産・消費をめぐる構造変化> 

図表2に示したGDPに占めるエネルギー財純輸出割合に関しては原油の影響が最も大きいが、その需給構造は以下の4つのパターンに分けることができる(図表3)。

 ①国内生産が国内消費を上回り、一貫して輸出超過となっている国(ロシア、中東諸国等)

 ②生産は横ばいだが消費増により輸入超過幅が拡大している国(中国、インド等)

 ③消費増や生産減により輸出超過から輸入超過に転じた国(インドネシア、英国等)

 ④国内生産が伸びたために輸入超過幅が縮小している国(米国)

 

足許の様なエネルギー財価格低下局面では、①の国は損失を被るものの、②~④は利益を得ることになる。 

 

まず、①の例として、ロシアは2000年代初めに生産が急速に増加するとともに純輸出が大幅に増加し、その後も純輸出は高い水準を保っているため、価格下落によるネガティブな影響を受けやすい構造に変化している。

 

次に、②の例である中国は1995年には国内原油生産で消費の88%程度を賄っていたものの、2000年代に入ってから飛躍的に消費量が増加し、純輸入量が膨らんでいる。こうした変化の結果、原油価格の下落はより強くプラスに働く様になっている。

 

そして、③のケースのインドネシアは2002年まで原油の純輸出国であったものの、国内消費が増加し、2003年以降は原油の純輸入国に転じその後も純輸入量が拡大している。中国と同様に、消費に占める純輸入割合が高まる傾向にあり、価格の下落がより大きなプラス効果をもたらす構造になっている。

  

最後に、④の例の米国は2008年以降、原油の純輸入量が減少している。この背景として、2008年以降消費が若干減少したこともあるが、シェール革命による国内での原油生産増加が主因として挙げられる。このような構造変化の下で、価格下落は国内の原油関連産業にとっては痛手となるものの、消費者や原油を集約的に使用する産業などの需要側にはプラスに働くと考えられる。米国では前者の影響が次第に大きくなっているため、以前に比べエネルギー価格下落のプラス効果は縮小傾向にある考えられる。 

 

産油国の原油消費量と生産量の内訳の推移

 

<産油国ではかつてより価格変化の影響を受けにくくなっている>

図表4は産油国地域における消費に占める原油の純輸出入割合の変化を示している(2004年と2014年の比較)。アジアの純輸入比率が消費増により上昇していることを除くと、純輸入サイドである北米は生産増、欧州・旧ソ連は消費減、純輸出サイドである中南米は消費増、アフリカは生産減と消費増、中東も消費増によって、すべての地域で2014年の方が消費に占める純輸入/純輸出の割合は縮小しており(図表5参照)、原油価格の変化が各国経済に及ぼす影響は総じてみれば緩和傾向にあると考えられる。

 

以上見たように、原油の収支構造は国によって違いが大きく、エネルギー価格の変化が与える影響は国家間で異なる。高い経済成長で世界経済の規模を著しく拡大させた新興国の台頭やシェール革命により、原油価格が各国に与える影響はここ10年で驚くほど様変わりした。米国の原油輸出解禁など世界のエネルギー勢力図の変化が見込まれる中、エネルギー価格が各国のマクロ経済に与える影響を今後も注視していくことが肝要と思われる。(了)

 

産油国地域の2004年と2014年の原油の生産・消費構造の変化


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