債券の信用リスク・コントロール

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国内債券運用部 森 幸嗣


前回の当コラムでは、クレジット投資のリスクと有効性についてお話ししました。今回は、実際にクレジット投資を行なう際のリスク・コントロール手法についてお話しします。

 

皆さんは「債券の信用リスク・コントロール手法」と聞いて、何を思い浮かべるでしょうか? 先ずは、クレジット投資対象証券 ― ここでは事業債とします ― への投資額(若しくは投資比率)を調整することが最初に思い浮かぶかも知れません。その他に、格付けや投資年限に制約を設けることも考えられます。これらの管理手法は何れも、クレジット市場が大きく動く局面において、事業債の利回り低下/上昇(=単価上昇/下落)がポートフォリオに与える影響をコントロールする働きがあります。

 

但し、具体的に運用する場合には、いろいろな問題が発生します。

 

例えば、格付けによるリスク管理では、格付けが変化するタイミングが問題となります。市場で何らかのクレジット・イベントが発生した場合、流通市場では瞬時にその影響が分析・評価され、事業債利回りに反映されはじめます。それが需給に影響を及ぼし、数日間の内に概ねその材料の織り込みが終了します。一方、格付け会社のアクションは、担当アナリストの事実確認作業・分析を経て、格付け変更会議で討議されてから格上げ/下げが決定されるため、往々にして格付け変更が公表された時点では後の祭り、手遅れになっている場合が多いのです。

 

投資年限(デュレーション)による管理にも限界があります。固定利付債では、短期債の方が長期債よりも同じ利回り変化あたりの価格感応度が低いことから、保有事業債の平均年限を短期化すれば、損益変動の小さいポートフォリオになるとお考えの方も多いかも知れません。確かに、全ての銘柄において短期債と長期債の利回り変動が同じであれば、短期債の単価変動幅は長期債より小さくなります。

 

しかし実際の流通市場においては、事業債の国債対比の上乗せスプレッド(以下、「Tスプレッド」とします)が同じ動き(変動幅)をすることはありません。一般的には、同じ残存年限なら高格付け債よりも低格付け債の方が、同じ銘柄なら短期債よりも長期債の方が、利回り変動幅は大きくなることが経験則上知られています。

 

【グラフ1】は、国内事業債市場におけるTスプレッドの水準とボラティリティーの関係をプロットしたグラフです。視覚的にも分るように、水準とボラティリティーには統計的に有意な一次相関(比例)関係が成立しています。このことは、Tスプレッドの水準自体がそのボラティリティーを決定する指標であることを表しています。正に「市場は全ての情報を織り込んでいる」わけです!

 

スプレッド水準とボラティリティの相関

 

ここで、信用リスクを管理する上で問題となるのは、「業種や銘柄によって相関が異なるのではないか?」ということと、「相関関係は安定的に成り立っているのか?」ということです。

 

前者の疑問については、財投機関債、電気・ガス業、銀行業、陸運業(国内事業債市場におけるウェイトの高い業種順)、及びその他の業種の5グループに分けて、実証分析を行ないました。その結果、全てのグループにおいて、Tスプレッド水準とボラティリティーの間に統計的に有意な一次相関関係が成立しており、その「傾き」はグループを問わず長期的には概ね一定であることが確認できました。
後者の疑問については、過去12カ月間の回帰分析における決定係数の推移【グラフ2】をご覧ください。決定係数はだいたいの期間において高水準(平均:76.4%)を維持しています。

 

相関関係の推移

 

こうした分析を踏まえ、当社では格付け毎の組入比率や投資年限(デュレーション)に加えて、全銘柄のTスプレッド水準を考慮した指標を作成し、ポートフォリオの信用リスク管理に活用しています。Tスプレッド水準は銘柄固有の数値であり、信用状況の変化に従って日々刻々と変化します。こうした即時性の高い指標に基づいてポートフォリオの信用リスク水準を常時把握し、必要に応じて調整を加えることで、格付け等による管理手法よりも迅速な対応が可能となります。

 

当社はこうした市場の実証分析に立脚した精緻な信用リスク・コントロールを行なうことにより、資産の保全に努めています。

 


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