アマゾンも入ってこない視力の世界

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2018/2/19

株式運用第一部

永田 芳樹

※このレポートでは、日本株ファンドマネージャーが注目しているトピックなどを毎週お届けします。

 

目が悪いと、様々なコストがかかります。眼鏡代、コンタクト代、視力の検査費用、そして勇気のある人はレーシック手術費用。私も十代から視力矯正が必要だったため、大体いくら程度かかかるか、その費用を身を持って知っています。眼鏡なら1セット5,000円~5万円、使い捨てコンタクトレンズが1か月4,000円~5,000円と、両方使っているので結構な出費になってしまいます。

 

ただ眼鏡にかける費用の感覚は、世代によって違います。驚くことに、50代の同僚は、眼鏡1セットに10万円をかけます。この感覚は、おそらく若い頃から眼鏡は1つを大切に使うのが当たり前だったことが影響していると思います。街の眼鏡店でじっくりフレームやレンズの厚さを選び、さらに店員と密に話し合いながら、眼鏡を注文するまで2時間、3時間と時間をかけていきます。まさに日本の眼鏡専門店はコンサルティングしながら売っていくスタイルで、80%という高い粗利率を可能にするビジネスモデルといえます。

 

一方、私が社会人になってしばらくすると、1万円以下の眼鏡を売るワンプライス、ツープライスの低価格眼鏡店が台頭してきました。1本を大切に使うというより複数を気分やシチュエーションに合わせて使い分け、その代わり5本10本と多くの眼鏡を気軽に購入することが可能になりました。またコンサル型の眼鏡店ではレンズを薄くすると値段が大きく跳ね上がるのですが、低価格眼鏡店ではレンズを薄くしても日数さえ我慢すれば値段は同一となることがあります。このお得感と手軽さで爆発的に販売本数を伸ばしていきました。

 

この低価格眼鏡店は、既存のコンサル型眼鏡店のシェアを継続的に奪ってきました。下のグラフのように総務省の家計調査報告によると、国内の眼鏡支出は高齢者でも継続的に下がっており、2000年の1万円弱から直近では7,000円以下まで下がっています。これは20代、30代だけでなく、眼鏡は高級品という意識の強い50代以上でも低価格眼鏡にシフトをしていることを示しています。ただこの流れも一巡し、眼鏡への支出額は下げ止まり、直近では上昇傾向に転じています。

世帯主の年齢層別 1世帯あたりの眼鏡に対する支出額推移

 

低価格眼鏡店の代表はJINSブランドのジンズです。2006年に上場し、最初は低価格で量を売るスタイルでしたが、ブルーライトカットのPCメガネなど市場開拓型の商品開発を積極的に行い、低価格眼鏡店を眼鏡市場の主役に押し上げました。最近では花粉カット眼鏡や色のついたレンズなども積極的に投入し、眼鏡市場の活性化に取り組んでいます。またアメリカ、中国にも積極的に出店し、日本の低価格スタイルを海外に広めていっています。  

 

ただPCメガネブーム後の2014年から数年間、出店スピードや売上成長に比べ、利益成長は停滞気味です。この理由は海外の初期投資、眼球の動きを捉えるセンサー付き眼鏡のJINS MEMEの開発投資だけでなく、既存店売上高の成長鈍化による影響が大きいといえます。商品数は増えているのですが眼鏡のデザインの違いといった本質的な品ぞろえというより、耳にかかる部分のテンプルの色のバリュエーションを増やすなど、小手先の変化で商品数を増やしてきました。こういった変化に消費者は敏感で、店頭で商品を選んでもあまり変わり映えしない印象を持ち、来店頻度が落ちた可能性が高いと考えています。

 

しかしジンズも危機感を持ち、ここ1年で大きく変わり始めました。大手自動車会社のデザイナーを採用し、アルミフレームなど先鋭的なデザインを感じさせる商品を投入し始めています。また価格体系も4プライス制から3プライス制に集約し、売れ筋の品ぞろえを充実させました。さらに私が重要だと考えているのは、個人情報管理の導入です。不思議なことに今までは一人ひとりレンズの種類が違うにも関わらず、会員カードなどで個人情報の収集を行っていませんでした。眼鏡は医療機器の側面もあり、個人ごとに情報を管理しなければならないため、なかなか情報の蓄積が難しいようですが、低価格型の他社に先駆けてスマートフォンのアプリやPCで一括管理をはじめました。

 

これにより店頭だけでなく、インターネットでも眼鏡を購入することも可能になりました。またコンタクトレンズなど新規事業の展開も、行いやすくなります。他社に先駆けて展開を始めた個人ごとのデータ管理は、結局消費者のニーズを捉えることにつながります。前ページのグラフのようにここ数年の単価上昇傾向も、消費者のニーズが価格と異なるところにあることを示していると言えます。

 

アメリカでは眼鏡を購入する際に必ず医師の処方箋が必要となるため、実はアマゾンなどの参入も容易ではありません。アマゾンに脅かされないIT小売りとして、利益の源泉である国内の強化と独自の商品力で、今後の再成長期待が高まってきています。

 

 


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