門司総一郎のMarket Report トランプ米大統領のここに注目-米追加関税は早期撤廃か?-

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2018/6/5

経済調査部

シニア・エコノミスト

門司 総一郎

はじめに

6月1日、米国はこれまで免除していたカナダ、メキシコ、欧州連合(EU)に対しても、鉄鋼・アルミニウムの輸入に対する追加関税(以下、追加関税)を発動しました。これに対して各国も対抗措置を採ることを表明したため、本格的な貿易戦争を懸念する声が強まっているようです。

しかし当コラムではこうした見方とは逆に、この追加関税は早期に撤廃される可能性があると考えています。今回の「市場のここに注目」はその理由についてコメントします。

追加関税の狙い

そもそも追加関税の狙いは鉄鋼やアルミニウムの輸入抑制自体ではなく、これを取引材料として、貿易相手国から不均衡是正につながるような譲歩を引き出すことでした。しかしこれまで米国の思惑通りに譲歩を引き出せたのは、自由貿易協定(FTA)の見直しに応じた韓国のみで、それ以外に米国の要求に屈した国はありません。したがって追加関税は期待された役割をほとんど果たせなかったと解釈すべきでしょう。

カナダやメキシコ、EUに対する追加関税発動も「カードを切った」というよりも「切らされた」との印象を受けます。米国としては関税発動のカードを切らずに交渉を続けたかったと思いますが、中間選挙が近づく一方で、相手国の姿勢に変わりがないため、やむなく追加関税を発動したと見ています。

「追加関税で鉄鋼やアルミ業界が恩恵を受けたならそれでよいのでは」との見方もあるかと思いますが、そうではありません。今後各国からの報復を覚悟しなければならないからです。

各国の報復措置

これまで米国の追加関税に対し報復関税を発動したのは中国だけでした。しかし、今回新たに対象になったEU、カナダ、メキシコはいずれも報復関税を明言しています。

6月1日付読売新聞はEUについて「ハーレーダビッドソンの二輪車やリーバイスのジーンズなど米国を代表する製品」、カナダについては「最大166億カナダドルの米国製品」、メキシコについては「米国から輸入する鉄鋼、豚肉、チーズなど」を対象に報復関税を課すと報じています。

少し古い記事ですが、3月6日のブルームバーグの報道によると、ハーレーダビッドソンの本拠地は米共和党のライアン下院議長の地元ウィスコンシン州、またリーバイスの本社は米民主党のペロシ下院院内総務の選挙区にあるそうです。EUの報復関税は共和・民主両党の要人を狙い撃ちにしたといえます。

懸念される国内からの反発

こうした報復措置が本格化すれば、米国もただではすみません。国内から反発の声が高まる恐れがあり、その場合、トランプ氏が重視する中間選挙にとってもむしろマイナスということになるリスクがあります。

そのためトランプ氏にとってベストの策は追加関税の即時撤廃と考えています。面子の問題もあるため、すぐに撤廃というのは難しいでしょうが、遅くとも中間選挙終了後の11月までには撤廃される可能性は高いと予想しています。国内からの反発が高まれば、その分早期に撤廃される可能性が高まるでしょう。

米中交渉と自動車関税

米国が抱える主な貿易問題としては、他に米中交渉と自動車関税の問題があります。この両者についても最近進展が見られる、あるいはそれほど懸念する必要はないと考えています。この件に関しては次回取り上げる予定です。

株式市場上昇の時期は前倒し

最後に株式市場の見通しです。景気や業績に関して問題はないものの、中間選挙を控えてトランプ氏が株式市場にマイナスとなる政策を打ち出してくるリスクがあることから、目先はボックス圏、9-10月から上昇と予想していました。しかし、通商政策での不透明感が薄らいだとの判断から、従来の想定より前倒しで、足元から株式市場は緩やかながらも上昇に転じるとの見方に修正しました。この件についても次回取り上げる予定です。

 

 


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