トランプ米大統領のここに注目-貿易戦争は続かない-

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2018/7/17

経済調査部

シニア・エコノミスト

門司 総一郎

はじめに

最近「貿易戦争」という言葉をよく目にします。米国の輸入関税引き上げとその他の国の報復関税を戦争に例えたものですが、筆者はこの表現は大げさで、「ケンカ」程度のものだと考えています。そう考える理由は、各国が自国産業保護のために関税を引き上げた1930年代と異なり、今回はむしろ自由貿易を求める声が圧倒的で、保護貿易を求める声はほとんどないからです。今回の「市場のここに注目」は、こうした自由貿易を求める動きを紹介します。

誰も望んでいない保護貿易 

7月1日付日本経済新聞は米国の鉄鋼・アルミニウムの輸入制限に対抗策をとっている地域・国としてカナダ、欧州連合(EU)、ロシア、メキシコ、中国、トルコ、インドの7か国・地域を挙げています。貿易戦争が起きているのであれば、米国とこの7か国・地域の間ということになるのでしょうが、納得がいきません。米国以外の7か国・地域は単に売られたケンカを買っているだけで、保護貿易を志向して自国の産業保護のために報復関税を発動している訳ではないからです。

さらに米国についても、トランプ米大統領が求めているのは貿易不均衡の是正で、鉄鋼・アルミニウム産業以外の自国の産業保護に関心があるようには見えません。つまり誰も保護貿易を望んでいないのに言葉が一人歩きしている。これが現在の状況と考えています。

加速する自由貿易ネットワーク構築の動き

逆に勢いを増しているのが、自由貿易ネットワーク構築の動きです。米国の離脱で瓦解したと思われたTPPは「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定」(TPP11)として復活、加盟各国の国内手続きを待つだけの状況までこぎつけました。既にタイが参加の意向を示している他、韓国、台湾、コロンビア、英国などもTPP11に関心を示しており、参加国はまだまだ増えそうです。

この他アジアでは、日中印や東南アジア諸国連合(ASEAN)など16か国が進める東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の交渉を急ぐ動きが出ています。また日本はEUとの間で経済連携協定(EPA)を結ぶことで合意しています。17日が署名式の予定です。

中国の市場開放

もう1つ見逃せないのが、中国の市場開放です。中国は7月1日に自動車や日用品など幅広い分野で関税を引き下げました。また金融や自動車などでの外資規制も緩和しました。これを受けて独BMWが合弁会社の出資比率を現在の50%から引き上げ、過半数とする見通しです。中国のこうした動きは、米国からの圧力が高まる中、対外的に市場開放をアピールする狙いといわれますが、これもまた自由貿易を志向する動きといえます。

貿易戦争は続かない

このように実際に起こっていることは「貿易戦争」、「保護貿易」などから受ける印象とは真逆の自由貿易ネットワーク構築や市場開放です。こうした環境においては、トランプ氏が拳を振り上げようとも、貿易戦争がいつまでも続くとは思えず、こうした状況は年内にも終わると考えています。実際、トランプ氏の通商政策にも手詰まり感が出てきたと考えていますが、次回の「市場のここに注目」はこのトランプ氏が行き詰まっていると考える理由について説明します。

 

 


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