トランプ米大統領のここに注目-手詰まり感が出てきたトランプ氏の通商政策-

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2018/7/25

経済調査部

シニア・エコノミスト

門司 総一郎

はじめに

前回の当コラム「トランプ米大統領のここに注目ー貿易戦争は続かないー(2018年7月17日付)」では、トランプ氏の通商政策にも手詰まり感が出てきたと述べました。今回は、筆者がそのように考える理由を説明します。

関税発動の狙いは条約の見直し

トランプ氏が手詰まりであると考える理由は、3月に自ら貿易戦争を仕掛けておきながら、ここまで成果がほぼゼロということです。トランプ氏の貿易戦争での戦略は、鉄鋼・アルミニウム関税(以下、鉄鋼・アルミ関税)に関するものと、対中制裁関税の2本立てですが、まずそれぞれについてここまでの経緯を振り返ってみます。

今年の3月に鉄鋼・アルミ関税を仕掛けた時点でのトランプ氏の狙いは、これをカードに貿易相手国に米国に有利な形での通商条約締結(または条約の見直し)を迫るというものでした。自身の支持基盤である鉄鋼・アルミニウム産業の保護も狙いの1つだと思いますが、最優先ではないと考えています。

しかし、米国の要求に応じたのは自由貿易協定(FTA)を見直した韓国のみで、その他の国は交渉に応じず、結果としてトランプ氏の狙いは空振りに終わりました。それだけに止まらず、中国、カナダ、メキシコ、欧州連合(EU)、ロシア、インド、トルコなどが米国に対して報復関税を発動しており、ハーレーダビッドソンが欧州向け製品の製造拠点を米国外に移すなど、トランプ氏の意図に反する動きもありました。トランプ氏は既に鉄鋼・アルミ関税への関心を失った模様で、最近は言及もほとんどないようですが、米国の鉄鋼・アルミニウム産業の保護のために続けているのかもしれません。

対中交渉も難航

対中国でのトランプ氏の狙いは、知的財産権侵害を理由とした制裁関税をカードに、米中間の貿易不均衡是正を迫るというものでした。当初、このカードは中国の大手通信機器メーカー中興通訊(ZTE)の制裁問題とあいまって、中国を追い詰めたように見えました。6月21日付ウォール・ストリート・ジャーナル(日本版)によれば「中国はトランプ政権が関税の発動を回避すれば、米国の農産品や工業・エネルギー製品を700億ドル近く購入する案を示した」として、中国が譲歩した様子を報じています。

ここはトランプ氏にとっていったん矛を収めるチャンスだったと思いますが、トランプ氏は中国の提案を拒否、更に制裁関税に対して中国が報復措置をとった場合、2,000億米ドル(後に最大5,000億米ドル)相当の輸入に対し、追加の制裁関税を課すことを表明するなど、圧力を一段と強めました。このトランプ氏の対応を受けて中国も態度を硬化、徹底抗戦に転じており、7月6日に米国が制裁関税を一部発動した際には中国もすぐさま報復関税で応じました。このように、成果を挙げるチャンスを見送った結果、トランプ氏は対中国でもここまで実績ゼロという結果です。自ら仕掛けた鉄鋼・アルミ関税と対中制裁関税の2つの貿易戦争で成果はほぼゼロ、これがトランプ氏の通商戦略に手詰まり感が出てきたと考える理由です。

 

影響が出ない範囲で関税発動する可能性も

そうした中、トランプ氏に残されたのが、対中制裁関税と自動車関税の2枚のカードです。トランプ氏がこの2枚のカードを切るか、と聞かれれば答えは「イエス」です。しかしその結果、世界中が大混乱に陥るか、と聞かれれば答えは「ノー」です。筆者がそのように考える理由は、以下の通りです。

トランプ氏にとってここから最も望ましいシナリオは、自動車関税や制裁関税を切り札として相手国に米国に有利な形での通商条約締結(または見直し)を迫るというものですが、これは鉄鋼・アルミ関税の時と同じ図式です。この場合、カードは切ってしまえばその効力を失ってしまうため、おそらくそう簡単にカードを切ってくることはないでしょう。

一方、相手に圧力をかける目的で、影響が限定的だと思われる範囲でカードを切ることはあり得ると見ています。実際、トランプ氏は既に対中制裁関税を発動していますが、発動の仕方は極めて慎重です。米国が制裁関税の対象品を公表したのが4月、第1弾(500億米ドルの内、340億米ドル分)の発動を表明したのが6月、実際に関税を発動したのが7月です。残りの160億米ドルについてはいまだ時期すら発表されておらず、そのペースは緩慢です。したがって、このような部分的な発動はあり得ると見ていますが、制裁関税や自動車関税をフル発動する可能性は低いと考えています。

 


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