トランプ米大統領のここに注目-「対決」から「対話」へ大胆な路線転換-

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2018/8/6

経済調査部

シニア・エコノミスト

門司 総一郎

はじめに

前回の当コラム「トランプ米大統領のここに注目ー手詰まり感が出てきたトランプ氏の通商政策ー(2018年7月25日付)」で述べたように、貿易戦争でトランプ氏は既に手詰まり状態にあると考えていました。しかし、トランプ氏は、この局面打開のために対決路線から対話路線へと大胆な転換を打ち出しました。今回はこの路線転換について考えてみます。

米欧首脳会談で貿易戦争の激化は回避か

トランプ氏がこの路線転換を見せたのは、7月25日にホワイトハウスで行われた、トランプ氏と欧州連合(EU)のユンケル委員長との首脳会談においてです。

7月26日付日本経済新聞夕刊によればこの米欧首脳会談の主な合意事項は以下のようなものです。

 

  • 自動車を除く工業製品の関税、非関税障壁、補助金の撤廃に取り組む
  • EUは米国産大豆や液化天然ガス(LNG)の輸入を増やす
  • 鉄鋼やアルミへの追加関税および報復関税の問題を解決する
  • 不公正な貿易慣行の問題やWTO改革で緊密に連携する
  • 高官協議の枠組みを設置。交渉中は合意の精神に反したことはしない

 

具体的に何かが決まった訳ではなく、これから取り組むということばかりですが、全体として協調をうたった前向きな内容になっています。米国とEUは鉄鋼・アルミニウムの追加関税やそれに対する報復関税などで対立していますが、貿易戦争勃発後にトランプ氏が、対立する国・地域の首脳とこのような前向きな合意に応じたのは初めてではないかと思います。これはトランプ氏にとって大きな路線変更と言えるでしょう。

NAFTA再交渉も進展

もう1つ、トランプ氏の路線変更を示唆するものとして、NAFTA再交渉が挙げられます。それは、トランプ氏の就任以来続いている北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉の前進です。8月1日、ロイターは米国とメキシコが自動車貿易を巡るNAFTA再交渉の2国間協議で合意に近づいていることを報じました。自動車は最も難航しているテーマであることから、ここでの合意はNAFTA再交渉全体がゴールに近づくことを意味しています。ロイターによれば、メキシコのNAFTA交渉部門責任者のギジェルモ・マルピカ氏は、米国がNAFTA再交渉で「一段の柔軟性」を示し始めたと述べたと報じており、ここでも米国がこれまでの対決路線を修正したことが示されました。

 

トランプ氏も追い込まれて仕方なくの路線転換となった可能性はありますが、判断は悪くないと考えています。米国もその他の国も、このまま貿易戦争を続けても決定打はなく互いに消耗するばかりです。中国に対してはこれまでの対決路線を続ける可能性はありますが、その他の国とは対話路線に転じて解決を模索するのであれば、この路線転換は歓迎すべきでしょう。

支持率低下リスクに注意

ただし、この路線転換はトランプ氏の支持率低下を招くリスクがあります。これまでの貿易戦争で、トランプ氏に実績らしい実績はありませんが、それでも支持率はじりじりと上昇してきました。この点については「米国民のために戦うトランプ」を支持者に上手く印象付けたことが、支持率上昇につながったとの指摘がありますが、それであれば今回の対話路線への転換は逆効果になる可能性が考えられます。

 

前述の欧州との合意にある「自動車を除く工業製品の関税撤廃」によって、トランプ氏のコア支持層である鉄鋼・アルミニウム産業が恩恵を享受している関税も撤廃の対象になります。11月に中間選挙を控えたこの時期に、自分のコア支持層の利益に反する政策を打ち出すことで大幅に支持率が低下する可能性は否定できません。

 

実際に、支持率低下の兆しは既に現れています。米調査会社ギャラップ社によれば、トランプ氏の直近の支持率は40%と、前週比2%低下しており、2018年5月下旬以来の低水準となりました。この支持率低下については路線変更が影響した可能性がありますが、このまま支持率が低下するかどうか、今後の世論調査の結果に注目したいと考えています。

 

トランプ米大統領の支持率の推移

 

 


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