日本株の見通し -日本株はボックス圏から上昇へ-

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2018/8/30

経済調査部

シニア・エコノミスト

門司 総一郎

はじめに

今年の日経平均株価は、貿易戦争の勃発を受けて3月に大きく下落しましたが、その後は21,500円から23,000円のボックス圏で推移してきました。直近では8月29日まで7日連続で上昇するなど、勢いを増しつつあるように見えます。このまま日経平均株価はボックス圏を抜け出し、上昇を続けると予想していますが、今回の「市場のここに注目」ではそう考える理由を説明します。

日経平均株価の推移

好決算VS通商問題・新興国通貨安

ボックス圏とは株価や株価指数が上にも下にも持続的には動かず、一定の水準で上下するような状況を指します。好材料と悪材料が拮抗している場合に起こる現象ですが、今回は、前回の当コラム「2018年4-6月期決算は良好(2018年8月22日付)」で紹介した好調な企業業績が好材料、米国の通商政策への懸念が悪材料になっていました。また最近は新興国通貨の下落も、日本株の上昇を抑えた要因だと考えています。

通商問題のポイントは、対中制裁関税と自動車関税

日本株だけではなく世界の株式市場にとって、通商問題に関する最重要テーマは、米国が2,000億米ドル規模の対中制裁関税第3弾を行うかと、自動車輸出に対する広範囲な関税の引き上げに踏み切るかです。どちらか1つでも実際に起これば、世界経済にとって大きな打撃になることが懸念されていますが、逆にどちらも起こらなければ、通商問題自体は継続しても世界経済に大きな影響はなく、株式市場への影響も薄らぐと見ています。

米墨合意は実質中身ゼロ?

27日には米国とメキシコが北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しで大筋合意しました。トランプ氏はその功績を誇っていますが、29日のブルームバーグの報道によれば、実情は異なるようです。今回の合意には域内での自動車の部品調達比率引き上げや、賃金条項(賃金が一定以上の水準の地域での生産を義務付ける)が盛り込まれましたが、ブルームバーグは「北米で製造されている自動車の多くは新協定の部材調達比率だけでなく、賃金の基準も既に上回っている(自動車研究センター、クリスティン・ジチェック氏)」、「メキシコから米国に輸出される自動車の70%は既に新ルールを満たしており、残る30%の自動車も現行の2.5%の米関税だけしか課されない(メキシコのグアハルド経済相)」などのコメントを紹介しています。これらを見る限りでは、今回の合意が実体面に与える影響は小さいようです。

実績作りに焦るトランプ氏

トランプ氏がこのような中身のない見直しを急いだのは、中間選挙を控えて1つでも実績といえるものが欲しかったためと思われます。7月の欧州連合(EU)のユンケル委員長との会談の時も、具体的には何一つ決まっていないのに、これを自分の実績として誇示しましたが、今回も同じだと考えています。

対中制裁関税も自動車関税も可能性は極めて低い

ここで先ほどの話に戻すと、仮にトランプ氏に対中制裁関税や自動車関税を発動する意思があるのなら、既に発動していると思います。しかし実際には、トランプ氏も発動が米経済などに与える悪影響を認識しており、発動する気はないと見ています。特に自動車関税については、今回の米墨合意に自動車関税の取り扱いが含まれていることから、可能性はさらに小さくなったといってよいでしょう。このように制裁関税や自動車関税発動の可能性は極めて小さいと予想されることから、日本株は上昇に転じると考えています。

新興国通貨安の理由は様々

通商政策と並んで日本株の上昇抑制要因となっているのが新興国通貨の下落です。通貨安の原因は国によって異なります。新興国通貨全体に共通する理由としては米国の利上げがありますが、それ以外は米国との通商問題(中国、メキシコ)、金融政策への不信感(トルコ)、大統領選挙(ブラジル)、米国による経済制裁(トルコ、ロシア)など様々です。理由が多岐に亘るため、新興国通貨が全体として落ち着きを取り戻すにはしばらく時間がかかると思われます。

FRBの姿勢に注目

その一方で新興国通貨の下支え要因と期待できる材料も出ています。その1つがジャクソンホール会議でのパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の発言です。これまで同様に今後も利上げを続ける姿勢を示しましたが、その一方で、「物価上昇率が目標とする2%を超え、過熱するリスクは見られない」と過度の利上げ観測をけん制する発言もありました。この他にも複数のFRB高官が利上げに慎重な発言をしていますが、こうしたFRB関係者からのハト派的な発言は新興国通貨の支援材料となるため、今後のFRBの姿勢の変化には注目しています。

また先ほど述べたように、通商問題への懸念は今後薄らいでいくと見ていますが、これも中国やメキシコなど、米国との間に貿易摩擦を抱える国の通貨にとっての好材料と見ています。

日本株は上昇へ

以上に述べたように、ここまで日経平均株価がボックス圏で推移してきたのは、企業業績の好調持続という好材料を米国の通商政策への懸念や、新興国通貨の下落などの悪材料が相殺したためと考えています。しかし対中制裁関税や自動車関税の可能性が低いことから今後通商問題への懸念は薄らぐと見ています。また新興国通貨についてもFRBのスタンスに変化が見えてきたことなどから徐々に落ち着きを取り戻すとの見方です。こうした環境の変化を織り込みつつ、日本株はここから上昇に転じると予想しています。

 

 


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