トランプ米大統領のここに注目-政権のレームダック化で見えてきた貿易戦争の終わり-

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経済調査部

シニア・エコノミスト

門司 総一郎

 

はじめに

9月17日、トランプ米大統領は、対中制裁関税の第3弾を24日に発動することを明らかにしました。これにより総額2,000億米ドル(約22兆円)の中国からの輸入に対し、新たに10%の関税が上乗せされることになります。追加関税の税率は当初の25%から10%に引き下げられましたが、それでも金額が大きいため、米中経済、更に世界経済への影響が懸念されています。

しかし、意外にも各国の株式市場にはほとんど影響はありませんでした。トランプ氏が発動を表明した17日の前営業日から19日まで、日米欧中の主要株価指数はいずれも堅調に推移しています。当初下落した米国のS&P500指数も下げを解消しました。今回の「市場のここに注目」では第3弾の制裁関税発動を表明したにも関わらず、世界の株式市場が堅調に推移した理由と今後の見通しについて考えてみます。

トランプ氏の支持率は2018年4月以来の水準に低下

まず株式市場が堅調な理由ですが、理由はトランプ氏の求心力低下にあると考えています。トランプ氏の求心力と株式市場にはあまり関係がなさそうですが、ここで貿易戦争終結のための条件について考えてみます。貿易戦争を望んでいるのは米国だけで、他の国は仕掛けられてやむなく応戦しているだけです。更に米国の中でも貿易戦争を望んでいるのは、トランプ氏とごく一部の保護貿易主義者だけです。このように考えると、貿易戦争を終わらせる条件は、トランプ氏が退陣する、あるいは求心力を失って、貿易戦争を継続できなくなる、のいずれかということになりますが、実際に最近のトランプ氏の求心力には陰りが見られます。

足元、トランプ氏の支持率は低下基調にあります。米調査会社ギャラップが2018年9月10日から9月16日にかけて行った調査によれば、トランプ氏の支持率は前回調査の40%から38%に低下し、2018年4月22日以来の低水準となりました。他の世論調査でも、同様に支持率の低下傾向が見られます。

 

 

トランプ米大統領の支持率の推移

経済界では貿易戦争に反対の動きが表面化

経済界ではトランプ氏の通商政策に反対する動きが強まっています。9月12日付ニューズウィーク日本版では、「IBMからマテルまで米主要業界がトランプの通商政策に反旗 ロビー団体結成へ」と題する記事を掲載しました。60以上の業界団体が、業界横断的な組織を立ち上げ、米中貿易摩擦や北米自由貿易協定(NAFTA)見直し交渉などに関する事態打開のため、共和党議員を対象にロビー活動を展開するとの内容です。これまでも企業や業界団体がトランプ氏の政策を批判することはありましたが、今回は単なる批判や反対のみならず、保護貿易を掲げるトランプ氏と自由貿易を掲げる経済界が、議員の支持を競う形になりそうです。経済界もいよいよ堪忍袋の緒が切れたということでしょう。

対中制裁関税の第3弾は両刃の剣

こうした急速なトランプ氏の求心力低下の背景にあるのが、トランプ氏の大統領としての資質に対する疑問です。ニューヨーク・タイムズへの匿名の高官を名乗る人物からの寄稿や著名ジャーナリスト、ボブ・ウッドワード氏によるトランプ政権の内幕を暴いた新刊などが描く政権内部の混乱を見て、トランプ支持を見直した有権者も多いでしょう。こうした状況下、トランプ氏の求心力低下は今後も続くと考えています。

従って、今回の対中制裁関税の第3弾は満を持しての発動ではなく、求心力回復のためのやむを得ない発動であると考えられます。ただしこの制裁発動は両刃の剣であり、かえってトランプ氏の傷口を広げる可能性もあります。過去2回の制裁と比較して、今回は家具や家電などの消費財が多く含まれており、消費者にとっては大きな打撃となります。こうした政策を中間選挙前に打たざるを得ないこと自体、トランプ氏の苦しさを物語っているといえます。

日本株を含む

このようにトランプ氏の求心力は大きく低下しており、既に政権のレームダック化(死に体化)は始まっていると考えています。制裁関税の第3弾が実行されれば、それは一段と進むことになるでしょう。そうした中において、トランプ氏は貿易戦争を継続することはできなくなり、貿易戦争は自然と終結に向かうと予想しています。既に日本株は上昇に転じましたが、日本のみならず、世界の株式市場は貿易戦争終結のシナリオを織り込みつつ、上昇に向かうと予想しています。

 

 


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