【日本】 運賃上昇がインフレに及ぼす影響

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経済調査部

シニア・エコノミスト

髙橋 泰洋

 

 

1. はじめに

ネット通販拡大で、配送現場がパンク状態に陥る中、宅配業者による値上げが注目を集めた。消費者物価指数(CPI)でも、ミクロ的には顕著な運賃上昇を確認することができる。こうした動きはマクロ的なインフレ動向にどのような影響を及ぼすのだろうか。運賃上昇によるインフレのアップサイドリスクについて考察した。

 

2. 運賃がコアCPIを直接押し上げる効果は小さい

運賃がCPIに影響する経路は、「直接効果」と「波及効果」に分けられる。「直接効果」とは運賃の値上げがCPIの「運送料」を押し上げるもので、「波及効果」とは運賃の値上げが物価全般に及ぶ影響である。「運送料CPI」を見ると、201710月から上がり始め、4月時点では前年比+12.1%と大きく上昇している(図表1)。ただし、「運送料CPI」がCPI全体に占めるウェイトは僅か0.15%であり、コアCPIに対する寄与度も+0.02%ポイントに過ぎない(図表2)。仮に、「運送料CPI」が倍(+100%)になるという極端なケースを想定しても、寄与度は+0.2%ポイントに留まる。この様に「直接効果」がコアCPIを押し上げる力は限定的と考えていい。

運送料CPIと道路貨物輸送CSPI

 

 

3. 運賃コスト上昇による「波及効果」も今のところ大きくない

より重要なのは「波及効果」である。今のところコアCPIは伸び悩んでいるが、この影響が大きければ、この先コアCPIの上振れに注意が必要かもしれない。では、「波及効果」はどのくらいであろうか。

道路貨物運用CSPIに対するCPIの弾性値

 

「波及効果」を考えるとき、運賃として見るべき指標はCSPI(企業向けサービス価格指数)である。CSPIは企業間取引段階の物価を計測しており、企業が直面する運賃コストに該当する。この中で、「道路貨物運送CSPI」に着目すると、「運送料CPI」ほどではないにせよ、直近3月で前年比+2.4%上がっており、運賃コストの上昇が確認される(図表1)。

図表3は、運賃コスト上昇に対するCPI各項目の感応度を弾性値で示している(例えば教養娯楽では運賃コスト1%上昇に対して0.45%上昇。詳細は注参照)。ここでの弾性値は、運賃コストである「道路貨物運送CSPI」が1%上昇したとき、CPI各項目が何%上昇する傾向があるのかを意味している。更に各項目がCPI全体に占めるウェイトに基づいて、コアCPIの弾性値を推計すると0.13になる。これは、「道路貨物運送CSPI」が1%上昇すると、コアCPI0.13%上昇することを意味している。「道路貨物運送CSPI」が直近3月時点で前年比+2.4%であることを踏まえると、運賃コスト上昇の「波及効果」はコアCPI前年比+0.3%ポイントとなる。一定の影響はあるものの、インフレ率を大きく押し上げるほどのインパクトはない。

 

4. インフレのアップサイドリスクとして運賃コストには引き続き注目

ただし、この「波及効果」の大きさは運賃コストの動向如何で変化しうる。運賃に影響を及ぼすと見られる人手不足感や原油価格を見ると、足下の状況はかつて運賃が大幅に上昇した1980年代終盤~1990年代初頭と似ているようにも見える(図表4)。仮に、「道路貨物運送CSPI」も当時同様に前年比+510%程度上昇するのであれば、「波及効果」はコアCPI前年比+0.61.3%ポイント程度に増幅し、2%に向けてインフレ率を大きく押し上げる可能性がある。これは、あくまでリスクシナリオだが、運賃コストが一段と上振れる場合には、「波及効果」を通じたインフレのアップサイドリスクに注意が高まると考えられる。

運賃上昇時の人手不足感と原油高


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